第二章 亜人の国 「魔王の鉄槌⑤」
収容所近くまで転移をした。
最後まで同行すると譲らなかったラピカとジルは、傍らで青い顔をして胸をさすっている。
嘔吐くのがわかっているのだから一緒に来なくて良いのにと思いつつ、役得だからと2人の背中を優しくさすってあげた。
「す···すまない···。」
「ありがと···。」
···幽霊でも見たような表情と表現すれば良いのか、2人ともキレイな顔立ちが台無しだった。
「少しで良いから、水を飲んで休んでいろ。俺は偵察に行ってくる。」
こくんと頷く2人をおいて、目的地へと近づく。
山岳地帯ではあるが、収容所の建物付近は平地で、針葉樹のような木々の中にあった。
背後には急斜面の岩壁がそびえ、そこから建物を中心に、半円を描くように3メートルほどの高さの柵で囲まれている。
見張りの兵士は、視認できる数で3名。死角や建物内にいる人数はわからないが、陽動して炙り出すのは可能と判断した。
ラピカとジルの様子だと、すぐに行動に移るのは少し厳しそうだ。
俺は収容所の右手に瞬間移動をした。
手頃な木を見つけて、蒼龍で幹を斬り、元の位置に戻る。
数十秒後に、切断した木が周りの木々にぶつかりながら倒れた。
「なんだっ!?敵襲か!?」
視認できた兵士だけでなく、建物内や裏手にいた者たちも、慌てた様子で外に飛び出してきた。
総勢8名。
事前に聞いた情報よりも少ない。
残りは建物内にいるのだろうが、見える範囲の窓からは確認できなかった。
「おい、誰か確認して来い!」
俺は気配を消して、兵士たちに気づかれないように建物に向かった。ここで瞬間移動を使えば、一瞬で建物内へと行けるのだが、移動先に誰かが潜んでいる可能性がないともいえない。
多少の距離があると、殺気でも放たれていないことには気配も読めないのだ。
物陰から物陰に移動し、建物の裏手に出た。
他の兵士は見当たらない。
北側に位置するこちらは、眼前に迫った岩壁のせいもあり、採光はほとんどない。壁には、換気用の小窓がいくつか並んでいるだけだった。
西側の壁にそってこちらまで来たのだが、建物の北西側には開口部の広い窓がなかった。
通常であれば、北側から採光がとれない分、西側に窓を設けるものだ。しかし、それがないということは、ダークエルフたちが収容されているのが、北もしくは北西部分であると考えられる。
俺は跳び上がり、平屋である建物の屋根に移動した。
屋根の形状は、北側に向かって傾斜が下がる片流れ屋根のため、這って移動する分には、兵士の集まっている南側からは発見されることはない。
「木が鋭利な何かで切られて倒れたようだ!」
「切られただと?斧か何かでか!?」
どうやら、状況を見に行っていた兵士も戻って来たようだ。
この距離なら、気配だけでそれぞれの位置は把握できる。俺は炸裂球を取り出した。
あのババ球よりも3回りくらい小さいものだ。ババが入っているわけではないので、この大きさで十分だった。
北側にある岩壁が上部にぶち当たった風を巻き込み、地表面では南に向けて風が流れている。
俺は風の流れを読み、起爆用のピンを抜いて炸裂球を兵士たちの上方へと投げつけた。
途中でボンっ!と鈍い音をあげて炸裂すると、中に詰めてあった赤い粉が7~8メートル四方に舞う。
そう、ひさかたぶりのチリパウダーである。
「ぐ···ぐぁっ!?」
「目っ···目がぁごぉぉ···。」
まともに吸い込んだ兵士たちの目鼻口を襲う。
俺は新たな武具を取り出して、苦しむ兵士達を1人ずつ屋根から無力化していった。
因みに、今使用しているのは、ダークエルフが小動物を狩る時に使うスリングショット、俗にいうパチンコである。これはY字型の棹が木製で、ゴムとなる部分には鹿のような動物の足の腱を加工して作られている。
元の世界の物よりも威力には劣るが、ブレないために命中精度が非常に高い逸品である。弾は石やドングリのような木の実で補えるため、森の中などでは弾切れもなく、中距離の無音武器として優れていたので、ガイから譲り受けたものだった。
おもしろい!早く続きが読みたい!と思っていただければ、広告を挟んだ下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけるとモチベーションが上がります。
よろしくお願いしますm(_ _)m。




