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80話 学校に行こう⑰

マイク·ターナーの研究室に入った。


事件の内容を伝えた大学職員へはギルドマスターとその補佐の権限により、他の者の立ち入り禁止を命じている。


「ギルマス権限ってそんなに強いのか?」


「ああ。魔族や魔物、貴族が関わった事件は緊急避難措置としての権限が発動される。辺境伯レベルのものだと考えていい。」


「···そんな権限を俺にまで付与してるのか?」


「ん?なんでだ?お前なら変なことには使わないだろ?」


使わないけど、会ってからまだ数日なのに良いのかよ。




研究室には様々な備品が置かれていた。

作業机には試験管などが雑多に並べられているが特に目を引くものはない。


俺は個室に入りデスクを調べる。マイク·ターナーの所持品にあった小さな鍵で引き出しを開けていく。


几帳面な性格が伺える。

二段目まではきっちりと仕切られ、きれいに小物が整理されていた。

一番下の引き出しを開けるとファイルが並んでいたので一冊ずつ中身を確かめる。


あった。


魔族の血に関する資料。


さらっと見ただけではただの研究資料に見えたが、マイク·ターナー自身が被験体となったレポートが中程から綴られている。

半ば日記のようなレポートだが、魔力や体力の増大幅や採血した血の成分量などが時系列に記載されていた。


エージェントとして医学の知識はそれなりにある。時には医師に扮して任務を遂行することもあるからだ。


このレポートに記載された血の成分には人が持っていないものが含まれていた。また、血液の半分以上を占める血漿成分の数値が異常なほど高く、出血の際に凝固させる作用や抗体量が基準値の3倍はあった。


他にも同様の資料がないかを調べてみる。


引き出しの中に他に気になるものはなかったので、壁際にあるキャビネットの鍵を開けて同じように資料に目を通していく。


一冊のノートを見つけた。


縦に差し込まれたファイル類の奥に隠すように入れられている。


中身は簡単な日記だった。


マイク·ターナーが魔族の血の研究を開始したのは1年程前のようだ。

たまたま研究に使う植物を採取するために山に入り、重症を追って死にかけている魔族を見つけた。そこで血液を採取して持ち帰り、薬への流用のための研究に利用することを思い至ったようだ。


当初の目的は難病治療のための薬品開発。


強靭な肉体と治癒力に優れた魔族の血を解明し、治療が困難な難病患者を寛解に導くためという志の高いものだ。


だが、自らが被験体となってから日増しに精神的な異常が見られるようになり、憎しみが増大していく経緯が綴られていた。


···これが真相か。


マイク·ターナーの研究は禁忌のようなものだ。成功すれば多くの難病患者が助かったかもしれない。だが、不確定要素が高すぎる危険な研究でもあった。


結果として、マイク·ターナー1人の犠牲で済んだが、最悪の場合は魔族化した被験体が多くの死傷者を出していた可能性があった。


いたたまれない気持ちになりながら、同じように狂気じみた研究をした奴のせいで自分がこの世界に飛ばされたことを思い出した。






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