第二章 亜人の国 「魔王降臨⑫」
「お取り込み中に失礼しまっす!」
俺は目の前の集団に向かって、大声をあげた。
服装が浪花商人風(と勝手に思っている)のままだったので、今回もそれで通そうと思ったのだ。
ただの自己満足だが、やりたいようにやる。
忘れてはいけない。
今はもう、組織に属するエージェントではないのだ。
他にどのような大義があろうとも、目の前の困っている人たちを助けたい。異世界に来てから、そう決めたのだ。
「通りすがりの商人、チャーリー·ババと申します。何か、お困り事のようにお見受けしますが、今ならキャンペーン中で、無料でお手伝いをしますよ。」
野郎共からは、とち狂ったオッサンがいる的な視線を受ける。
だが、一瞬の間の後に、集団の真ん中辺りから、女性の声がした。
「誰かはわからないが、助力を受けたい!」
状況に反して、意外と冷静な声音だ。
「逆恨みや妬みで、この集団に囲まれていると推察しますが、お間違いないでしょうか?」
「概ね、その通りだ!」
声だけで姿は見えていないが、なかなか胆力のある女性のようだ。冷静さも維持している。
「了解致しました。それでは、このクソ野郎共を殲滅すればよろしいのでしょうか?それとも、男性機能を剥奪する程度でよろしいのでしょうか?」
野郎共は、一様に呆気にとられた顔をしている。
「可能なのか?」
「可能です。得意分野ですから。」
「それでは頼む。結果は問わない。」
「承りました。」
俺はメガネをはずす動作の流れから、体を回転させて目の前の野郎に後ろ回し蹴りを叩き込んだ。
もちろん、人間が相手なので全力は出さない。
命を奪うことを躊躇っているのではない。コイツらは悪意をまとっているのだ。そんな奴等に容赦をする必要はない。
だが、全力でやると、今の俺なら無手でも相手の首や手足が飛び、体に風穴があくだろう。わざわざ返り血を浴びたいとは思わない。
それに、そういったシーンを目撃した女性に、人外生物だとでも騒がれるのはごめんだったのだ。
ようやく攻撃体勢に転じた野郎が剣を振りかぶってきたので、束を持つ手を片手でホールドし、もう片方の手で顎に掌底を打ち込む。
そのまま相手の手を引き、重心を崩した上で、近くにいる別の野郎の所へ放り投げた。
このタイミングで、集団の中からも剣戟や打撃音が響いてきたので、女性がまだ戦える状態であることがわかる。もしかしたら、仲間がいるのかもしれない。
剣を振り下ろしてきた野郎の攻撃を斜め前に踏み込んで避け、喉元に手を添えてそのまま押し上げて地面に叩きつける。喉輪落としだ。
左手から剣を突き刺して来た野郎の攻撃は流し、喉に手刀を入れた。
俺は囲まれないように、8の字を基本とした足運びをしながら、1人ずつ地面に沈めていった。
集団に囲まれた女性が拘束され、人質にでもされる可能性はあったのだが、焦っても仕方がない。囲まれてしまうと、完全に隙を無くすことができなくなり、いくらなんでもジリ貧となる。
もう少し耐えてくれよと考えたところで、集団の中から紅と白銀の何かが上に飛び出してきたのが見えた。
鮮血のような紅髪と、きらびやかな白銀の髪を持つ女性2人。
彼女たちは見惚れるような身のこなしで、野郎共の頭を足場にして再び跳び、こちらまで抜け出してきた。
何とも、タフな女性たちだ。
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