79話 学校に行こう⑯
大した親交があった訳ではないのだろうが、テレジアは元婚約者という立場上、ちょっとした罪悪感にとらわれている気がした。
人はほんの少しの関わりだけでも情を芽生えさせる。情の強さに関してはその人の優しさと比例するものでもあるのだが。
「テレジア、君は他人の痛みがわかる優しい心を持っているのだと思う。」
そういうと驚いたように俺を見る。
「マイク·ターナーがなぜあんな風になったのかは今はわからない。でも、君が不安を感じた時、心細さを感じた時は俺で良ければいつでも頼ってくれたらいい。」
テレジアはタイガの言葉を聞いた瞬間にモヤモヤした何かが消え去っていく気がした。
「い···良いんですの!?」
勢いよくテーブルに両手をつき、前のめりになって顔を近づけてくる。
近い···。
かわいいから良いけど。
「タイガ様をいつでも独占できるのですか!?」
独占って何?
「え···いや··独占と言うか、相談相手にならなるって意味だけど。」
「相談相手でも構いません!頼らせてください!!」
「はい。」
あれ···何か思ってたのと違う。
そんなこんなでテレジアとの話は終わり、応接室を出て教室まで送っていった。
途中、なぜかテレジアが腕を絡めてきたが、胸のあたる感触に抗えずにそのまま堪能したのは言うまでもない。
大きかった。
「大学の研究室で捜索をすることになったけど行くか?」
アッシュと合流するとそのまま大学に向かうことになった。
「大公のご息女と何の話をしていたんだ?」
「マイク·ターナーのことを話していた。思い詰めた顔をしていたのに何もしてやれなかったと落ち込んでいたみたいだ。」
「ああ、元婚約者だったな。」
アッシュの反応はあっさりとしたものだったが、知人でなければこんなものだろう。
大学まではそれほどの距離はなかった。魔導学院の裏門を抜けてしばらく行くとキャンパスに入る。
「講師の立場でも個室があるのか?」
「マイク·ターナーは薬学部の中でも新薬の研究員だったから個室があるらしいぞ。それほど広くはないが、専用の研究室も併設してる。」
「ずいぶんと薬学に力を入れているんだな。」
「病状を検査するために必要な薬品に関してはどこの大学でも力を入れてるさ。魔法はそこまで万能じゃないからな。ケガと違って回復魔法を使えば治るわけじゃない。」
「そうなのか?回復魔法は何にでも効くと思ってた。」
「ウィルス性の病気なんかだと回復はできてもウィルスは残るからな。薬を使わないとすぐに再発する。」
なるほど。
納得。




