7話 異世界には異世界の脅威があった③
陥没していた魔族の顎には鋭い牙が生え、それが剣を噛み砕いたようだった。
放たれるオーラは禍々しさを増し、俺を包み込む。
このオーラは人体に何か影響を及ぼすのだろうか?
非現実的なことの繰り返しで、俺の思考は焦るどころか冷静さを増していく。オーラ自体はまとわりつくような不快感を微かに感じさせるが、体に何か影響が出ているような気配はなかった。
「早く逃げて!そのオーラは魔力を介して精神干渉してくるわ!!」
妖艶なお姉さんが叫んでいる。
そうなのか?
じゃあ、そういうことにしておくか。
「ぐうぅぅぅ。」
俺はとってつけたかのような苦悶の表情を浮かべてみた。
「クックックッ。身体能力の高さには驚かされたが、所詮は人間。我に血を流させたのを悔いるがいい。」
仰々しく話す魔族の体はさらに巨大化し、俺が極めていた腕が強引に振りほどかれた。
バランスを崩しかけて横に飛んだ俺の首を、片手で掴み宙に吊し上げる魔族。
すでに変体が完了した魔族は、青銅色の肌をして三メートル近い身の丈へと変貌していた。動きも速く、パワーも尋常ではない。
赤い眼に両端がつり上がった口。背中からは、大きな黒い翼が生えていた。
昔見た漫画でこういうキャラがいたな。いや、そんなこと今はどうでもいい。
首に食い込んだ爪が不快ではあったが、大したダメージはなかった。
「タイガっ!」
「ダメよ、兄さん!不用意に近づいたら精神干渉を受けるわ!!」
俺の名を呼び、近づこうとしたアッシュに銀髪の女の子がストップをかける。
兄さん?
あの美少女はアッシュの妹か。
「クソっ!」
悔しそうに言葉を吐き出すアッシュ。今度からお兄さんと呼ばせてもらいます。
「ぬう・・・貴様、なぜ精神干渉にかからない?」
魔族が不思議そうな眼で俺を見ている。バレたようだし、そろそろ潮時だと感じた。
「媒体にする魔力が元からないからじゃないか?」
そう言いながら、俺の首を締め上げている奴の手首を掴み、両足でその腕を挟みこんで勢いよく体を捻った。
ゴキュッ!
嫌な音を立てて青銅色の腕が脱臼する。
「グガァッッッ!」
苦悶の表情を浮かべる魔族。
痛みを感じるということはダメージを与えられるということだ。魔族も人間と同じ対処法が有効であると考えることにした。
俺は魔族のこめかみをそのまま踵で蹴る。
一瞬ふらついた魔族から離脱して間合いを取り、そのまま体重を乗せた回し蹴りを反対側のこめかみに放った。
反撃開始だ。