第二章 亜人の国 「共生⑫」
西に大海、中央に豊かな土壌を持つウェルズ公国。
漁業だけではなく、林業や鉱業なども盛んで、隣国群の中では最も資源豊かな国である。
しかし、この国では現在、ある大きな問題を抱えていた。
「陛下、またもや1艘が壊滅的な被害を受けました。」
「···艦船による攻撃は中止せよ。無駄に被害が増えるだけだ。」
公国のトップに立つのは、若き俊才と呼ばれるイリーナ·トルネ·ヴァスクァス大公である。
女性ながら、幼少期より政治·経済の分野を中心とした帝王学を修めた頭脳派で、15歳の成人となった歳から父である前公王を補佐していた。また、魔法こそは才能に目覚めなかったものの、剣の腕前も戦術についても、英才教育により、非凡な実力を有している。
5年前に前公王が急死したことにより、当時公国軍の本部に所属して組織内の効率化に着手していた彼女は、周囲からの圧倒的な支持により戴冠する。
王制とは異なり、本来公王とは世襲制ではない。
それにも関わらず、議会の満場一致で公王となった彼女の有能さ、人格、そしてそれまでの功績は、万人が認めるところであったのだ。
当時の彼女の年齢は21歳。
しかし、若き公王はその手腕をいかんなく発揮させ、それからのわずかな歳月で国を大きく発展させてきたのだった。
「それにしても、シーサーペントへの対抗手段が他にありません。魔法士を投入するにしても、沖から近づいてこないことには魔法の有効範囲からも外れますし···。」
側近の1人が言うように、2週間ほど前から近海に現れたシーサーペントへの対応が思うように進んでいなかった。
直接、街や港に被害が出ている訳ではないが、漁業や近隣地域との交易に影響が出ており、経済的な被害は小さいものとは言えなかったのだ。
「空から攻めるというのは現実的ではないし、かと言って艦船では対抗ができない。やはり、多大な犠牲を覚悟の上で、艦隊による包囲攻撃の決断をすべきか···。」
公王イリーナは、眉間に皺を寄せながら、解決策を模索する。
絶世の美女と言うまでではないが、その容姿はそれなりに整っている。どちらかと言えば、可憐な顔立ちとも形容ができるが、平常時であれば親しみやすい美貌であることに、民からも人気のある人物である。
しかし、シーサーペントの対応に難航している今は、少し陰りのある表情をしていた。
その時、兵士の1人が、対策本部としている詰所に駆け込んできた。
「ご報告します。冒険者が、シーサーペントの討伐に名乗りを挙げてきております。公王陛下に許可をいただきたいとの事ですが、いかが致しましょうか?」
「討伐だと?その冒険者とやらは、何名のパーティーで挑むつもりなのだ?」
「それが···。」
「どうした?」
兵士の歯切れの悪い返答に、彼女は幾分かの興味をおぼえた。
「たった1人で挑むと言っております。」
「···································。」
何を馬鹿なと一瞬思うが、彼女はその無謀とも思える提案に、逆に興味を引かれてしまった。
「1人でどのように討伐すると言うのだ?」
「それが···特殊な魔道具を持っているとしか···。」
「···それで、その者は何か要望を出してきているのか?」
「討伐の間、艦船を近づけないようにと···それから上部が鋭角な大型の盾を貸して欲しいとのことです。」
遠距離攻撃が可能な術でも持っているのであろうか。通常では空でも飛べない限り、有効な手段はないようにしか思えない。しかし、盾を貸与して欲しいとは···一体何に使うのだろうか。
「···わかった。討伐を任せよう。盾も貸与するように。」
「は···よろしいのですか?」
「かまわぬ。可能性があるのなら、試してみても何も痛まんだろう。」
「陛下···売名行為や、陛下に取り入ろうとするヤカラとしか思えませんが···。」
側近の危惧は最もだったが、現状を打破できない今は、藁にもすがりたい気持ちがなくはなかった。
「不審な動きをするようであれば、すぐに取り押さえれば良い。それに、失敗したとしてもこちらには犠牲は出ない。」
こうして、公王は謎の冒険者の討伐劇を見守るのだった。
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