第二章 亜人の国 「変革①」
「アストライアーの寵愛を受けると、魔王でも信用ができるということかな?」
アトレイクが女神であるなどとは、あまり考えたくもないが、とりあえずは棚上げすることにした。
今はもっと重要なことがある。
当然、事が落ち着けば、それをネタにアトレイクをいじり倒すつもりではあるが。
「先見の巫女の予言が、正にそれだったのだ。そなたは元々は人族。そして、亜人種からの信頼も得ている。我々にとっては、これ以上にない相手と認識している。」
再び、国王が話を継いだ。
「それで、亜人種と共闘して、魔族を退けたいということでよろしいのですか?」
「そうだ。」
随分と都合の良い話に聞こえる。
他の国の事情は置いとくとして、この国の亜人に対する扱いは、冒険者ギルドでの一件を見れば明らかだ。
奴隷として扱うまでではないが、差別は根強い。
「王太子殿下の闘いを拝見しましたが、普通の魔族であれば対抗できるのではないですか?」
上位魔族が相手だったので遅れを取ったのだろうが、王太子の実力はそれなりに高かった。スレイヤーとして、スカウトしたいくらいだ。
「タイガ殿。王太子殿下は、この国で五指に入る実力を有しておられます。逆に言えば、騎士達の実力は、殿下を遥かに下回るのです。魔族一体を相手取るのに、大隊クラスの投入が不可欠。他国との情勢を考えると、非常に厳しい戦力しか持ち合わせてはいないのです。」
宰相が力説を始めたが、そんなことは知っている。
代わりに亜人で魔族に対抗すれば良いと言っているようにしか聞こえないのだ。
「勇者がいるでしょう?」
「···確かに勇者たちは強い。魔族にも対抗できるでしょう。ですが···。」
「予算は有限だと?」
「·····························。」
それが本音か。
勇者への魔族討伐報酬は非常に高額だ。仮に数十体の討伐に成功したら、国の年度予算が破綻するのかもしれない。
それに、王国騎士団を投入した場合、国家防衛のための戦力が魔族によって削がれ、他国に攻めこまれる可能性が高くなる。
ジリ貧だな。
この国は魔族だけではなく、他国にも睨まれ、国防のための予算も工面できない状態にある。
そこに亜人を戦力として取り込めれば、急場は凌げるとでも考えているのか。
「王太子殿下はどうお考えですか?」
「私は···あくまで個人の意見として言わせてもらうが、亜人という蔑称すら改められない今の状態で、あなた達に一方的な要望を伝えなければならない国情を、まずは恥じなければならないと思っている。」
国王と宰相が、今の言葉で凍りついた。
そうだ。
それが正しい認識だと思う。
そして、それを躊躇うことなく言い放った王太子セインに、この国の希望が見れた。
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