第二章 亜人の国「冒険者ナミヘイ⑰」
「推測の域は出ないが、おそらくはそうだろう。」
「···サブリナは俺のことを信用してくれるか?」
「ん?あたりまえだ。エルミアは私の妹分だぞ。その夫を信じなくてどうする。」
「いや···それは偽装なんだが。」
「わかってるさ。でも、偽装とは言え、エルミアはエルフだ。普通は同族だろうと、簡単に気を許したりはしない。」
確かに、エルフは人族とは違う。気位が高いとも言われているが、自分自身を大事にする種族だ。誰かの妻を演じるなど、普通ではありえないことに違いない。
「わかった。エルミアやサブリナからの信頼を裏切るつもりはない。」
「そうか···では正式な婚姻を···。」
「···そういう話じゃないと思うが。」
「冗談だ。まあ、そうなっても良いとは思うがな。」
そういった話は、こちらの世界に来てからよく聞く。正直、もうお腹一杯だ。
「今はするべきことがある。」
「そうだな。それで、今世の魔王はどう動くつもりだ?」
「明日に王太子殿下に呼ばれている。それで見えてくるものがあるだろう。それと、ある貴族について聞いておきたい。」
「ある貴族?」
「王都に来るまでの間に命を狙われた節がある。」
「ああ、聞いている。」
「それと関連しているかはわからないが、王太子殿下の動きを探っている勢力がいるようだ。」
「それはありえる話だ。王太子殿下は次期国王。しかし、まっすぐすぎる性格故に、政敵とでもいうべき相手も多いだろう。」
「街の地図はあるか?」
「ああ。ちょっと待て。」
サブリナが机に広げた地図から、尾行した騎士が訪れた屋敷を指す。
「これは誰の屋敷だ?」
「それはフェミリウム公爵家の屋敷だな。」
「どんな人物かわかるか?」
「現国王の実弟で、次男は王国軍の将軍。当然、王家の中でも強い権威を持っている。その程度しかわからないけど、敵対するのなら最悪の相手だな。」
サブリナの話すプロフィールだけで、厄介な相手であることはわかる。
下手に敵に回すと、軍が出張ってくるだろう。
「人種についての意識は?」
「最悪だ。亜人を国から排除する法案を何度も議会に提出している。まあ、その度に王太子や敵対派閥が何とか凌いでいるようだがな。」
「敵対派閥に人権派でもいるのか?」
「人権派と言えば、そうだな。フェミリウム公爵は選民思想が強すぎるからな。同じ人族に対しても、身分による差別を高々に宣言している。」
なるほど。
今の話通りの人物であるならば、玉座が欲しくないわけがない。もしくは、他の王子を立てて傀儡にでもしそうだ。
「王太子の腹違いの王子を取り込んでいるという噂もある。実状がどうかはわからないがな。」
「それなりに情報を集めているんだな。」
「私らにとっても、王城の動き次第では死活問題となるからな。残念なことに、精度はあまり高くないが···。」
サブリナ達のこういった動きを好ましく思わない人族は少なくないだろう。情報収集も、ある一定の距離を置きながらでないと危険すぎる。
一歩間違えば、国全体が針のむしろのようになりかねないのだ。
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