69話 学校に行こう⑥
食事を終えてリル達との会話を楽しんでいるとフェリの級友らしき生徒が来て俺を紹介して欲しいと言ってきた。
「ギルバート先生、フェリさん、そちらの方とお知り合いなんですの?」
いかにも貴族といった雰囲気を醸し出した金髪碧眼のお嬢様だ。
後ろには取り巻きのように2人の女生徒がいる。
「あ···テレジアさん。」
フェリは少し苦手なのか固い口調でその女生徒の名前を呼ぶ。
「テレジアさんとおっしゃるのですね。私はタイガ·シオタ。ランクSスレイヤーで、ギルドマスター補佐を勤めることになりました。以後、お見知りおき下さい。」
席を立って貴族風の自己紹介をする。
空気を呼んで図書館で学んだ作法を使った。場所が場所だけにさすがに片ひざをついたりはしなかったが、この女生徒は気品が高く貴族としても上位の家柄だろうと推察されたからだ。
アッシュから知らされていなかったのか、ギルドマスター補佐という言葉にリルとフェリも驚いた顔をしている。
「まぁ、ご丁寧な自己紹介痛み入りますわ。私はテレジア·チェンバレン。フェリさんとは級友でありライバルですの。」
自信ありげな言動だが、テレジアに他意はなさそうだ。
俺のスキル"ソート·ジャッジメント"に反応はない。
極度に腹黒い人間だったりすると何らかのアラートが鳴るのだが、おそらく彼女は家柄や育った環境で物言いに高飛車なところが出るのだろう。
チェンバレン家と言えば王族の末端で、父親は貴族の最高位である大公だ。フェリの反応もそれが原因かと感じられた。
図書館で得た予備知識がなければ失礼な応対をしてしまってリルやフェリに恥をかかせていたかもしれない。
「異国の出身ですので私の家名は呼びにくいかと思います。失礼でなければタイガとお呼び下さい。」
「わかりましたタイガさん。さすがギルドマスター補佐を勤める方ですわね。その紳士的な応対は感銘を受けますわ。」
シオタという名はこちらの言語では発音がしにくい。下手をするとショタと呼ばれてしまう。それはこちらも避けたいのが本音だ。
「それにしても···私は社交辞令が苦手なのですが···テレジア様は気品に溢れていらっしゃる。本意からその美しさに眼を奪われてしまいますよ。」
こんな感じにアゲとけば良いかなと思って適当なことを言ってみた。今後のことを考えると国のトップにいる大公の息女に好感を植えつけといて損はないだろ。
「まぁ···。」
テレジアは耳まで真っ赤に染め上げて急にオロオロしだした。
あれっ?何かミスったか?
「きょ···今日のところは初見のご挨拶だけで失礼します。ご機嫌よう。」
そそくさと去って行ってしまった。
リルとフェリからはジト目で見られている···。
「···なんか、言い方がまずかったかな?」
「···悪くはないわ。むしろそんな応対ができるなんてすごいわ。」
リルの言葉になぜかトゲがある。
「わざわざ社交辞令が苦手って言っちゃうから誤解されたかも。テレジアさんっていつもあんな感じだけど、家柄がすごいから本音を語るような男性とは免疫がないと思うよ。」
フェリが捕捉してくれるが、さっぱりわからん。
「えっ···つまりどういうことかな?」
「要約すると、私は建前は申しませんが、あなたはとても美しいと感じていますって真顔で語った感じね。その前にファーストネームで呼んで欲しいとも言ってるから、求愛に近い表現に感じられたかもしれないわ。」
えっ、マジか!?
貴族の応対って難しい···。




