第二章 亜人の国「エージェントは冒険者を目指す⑬」
宿屋には、大浴場があるらしい。
湯の温度はそれほど高くはないが、地下から組み上げているとの事だ。
話を聞く限り、温泉ではないだろう。
地層に溜まった水が、地熱で温かくなったもの。良くある温泉擬きと言える。
湯量はあまり多くないため、町全体に行き渡るほどではないそうだ。それほど遠くない未来に枯渇するのではないかと思う。
因みに、小さな風呂がある客室もあったのだが、そこはエルミアに譲っている。さすがに大浴場ともなると耳が露出するので、それが原因でトラブルに巻き込まれるのを避けるためだ。
『何にせよ、風呂に入れるのはありがたい。』
ここしばらくは、水浴びか濡れた布で体を拭くだけの生活だった。
体を清潔にすることは感染病の抑止にもなるが、湯船に浸かることで疲れを癒す効果を得ることになる。
受付カウンターの横の通路を抜けて大浴場にたどり着くと、男性用の扉を開けて入った。
脱衣場のような広間に入ると、全裸の女性達が···何て事はない。
閑散とした空間がそこにはあり、「あれ?もしかして貸し切り状態?」的な感じだ。
人が大勢いる浴場など、興ざめも良いところなのだが、誰もいないとなると寒々とした感覚に陥ったりする。
ふと、先客がいることに気づいた。
脱いだ衣服が棚に置かれているのだが、そこには長い布がたたまれている。
お、あれって、もしかするとターバン擬きか?
マイクが入っているのかもしれない。
ちょうど良い。どんな耳をしているのか、拝見させてもらおう。
果たして、ウサミミなのか?それともエルフ耳か?もしかしたら、ネズミ耳とかかもしれないな。
そんなことを思いながら、大浴場に足を踏み入れた。
湯船に1人の男がいる。
···あれ?
これは···想定外だ。
たぶん、あれは先程のマイクで間違いはないだろう。顔つきは記憶にある造形をしている。
しかし···ケモみみやエルフ耳、ましてやネズミ耳などは見当たらない。
普通に、人間の耳だ。
だが···明らかに異質なものを目の当たりにした。
頭頂部に髪がないのだ。
大浴場の湯面から突き出たその顔は···まるで落武者のようだった···。
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