第二章 亜人の国「エージェントは冒険者を目指す③」
何だコイツ···頭でも打ったのか?
豹変したダニエルの態度に気持ち悪さを感じた俺だったが、とりあえず無視をして、下ろされてきたロープに負傷者をくくりつけて引き上げてもらう作業に入った。
本来なら渓谷の向こう側に渡るため、リーナ達の所に引き上げてもらうことは二度手間になる。しかし、渓谷の底には、まだ遠目に大蜥蜴の存在が見えるため、治療の場としては相応しくなかったのだ。
「タイガ様、引き上げてもよろしいでしょうか?」
ダニエルの言葉遣いに違和感を持ちながらも、引き上げてもらうために合図を送った。
「あの···。」
周囲警戒のために、他の者達を先に上がらせて大蜥蜴の動向を見ていると、負傷者を庇いながら戦っていたエルフの女性が話しかけてきた。
浅黒い肌に、白銀の髪。まだ16~7歳くらいに見えるが、長命種のエルフだ。自分よりも年上なのかもしれない。
顔つきじたいは可憐な感じだが、凛とした瞳が内面の強さを感じさせた。
「何かな?」
応えると、突然頭を下げられた。
「ありがとうございました!」
「え?ああ、ヘカトンケイルのことなら、もともとやりあうつもりだったから···礼を言われるようなことじゃないよ。」
「いえ···父を助けていただきました。」
ああ、あのエルフのおっさんがお父さんか。
「それもついでだから。気にしなくて良いよ。」
頭を上げた女性は、じっと俺を見つめてきた。真剣な瞳だ。
「普通は···ダークエルフの私たちに、それも猛毒を吸いだすような命がけの真似をする人などいません。」
どうやら、彼女も闇を抱え込んだ1人らしい。歴史を紐とけば無理のないことではあるが。
「俺は種族が何であるかなどは気にしていない。敵だったら戦うし、そうでなければ協力しあえれば良いと思ってる。」
驚いた顔をしている。
もしかして、助けたことに何か意図があるとでも思われているのだろうか?
そうであれば、やはり彼女達の闇は深いのだろう。
「タイガだ。よろしくね。」
俺は彼女に微笑んだ。
彼女達の闇が理解できるなどという、烏滸がましいことを言える訳がなかった。
少し卑怯な気もしたが、笑顔で濁したのだ。
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