第二章 亜人の国「 ダークエルフ⑳」
ダニエル君が、俺のことを歩く生殖器なんて言うから、少しいじめてみたくなっただけだ。
しかし、周囲はそうは思わなかったようだ。
時間が止まったかのような静寂。
みんなの顔を見渡すと···ドン引きしていた。
「···ふざけるなっ!やはりダークエルフなんかとつるんでいる魔王だなっ!血も涙もないのかっ!?」
長い静寂の後に、最初に口を開いたのはダニエル君だった。
しかし、その言い方が場の空気をさらに悪くしてしまう。
ダークエルフという蔑称だけでなく、その存在を卑下する言葉。
ガイは拳を強く握り、奥歯を噛み締めている。隣のリリィに至っては涙目だ。
自分のおふざけから飛火したとは言え、ダニエルの吐いた内容は見過ごせるものではなかった。
「それは···。」
「黙りなさいっ、ダニエル!」
俺の言葉を遮って怒りをぶつけたのは、予想外の人物だった。
「リ···リーナ様···。」
「私は···この方達の悲しい史実をタイガ様からお聞きしました。ダークエルフという蔑称を作り、この方たちが迫害される原因を作った一因は、間違いなく私たち人族にあります。あなたにもわかるでしょう?この方達は、困っている私たちを親身になって助けてくれました。こんなに優しくて、真っ直ぐな人たちを蔑むことは、もう終わりにしなければなりません。私たちは誤った認識は正さなければならないのです。」
リーナは頬を濡らしながら語った。
ガイは意外そうな顔をしたが、少しずつ表情を和らげいく。
リリィの涙は、途中から意味の違うものに変わったようだ。
「物心がつく前から刷り込まれた非常識だ。誤解をするのは仕方がないのかもしれない。だが、できることなら、今の俺たちの本質を見てもらえるとありがたい。」
ガイがダニエルにそう語った。
このような形で、様々な種族間の軋轢がなくなれば良いのになと、思わずにはいられなかった。
その後、リーナはダニエルに俺が話した内容をわかりやすく語り、もともと頭が固いと自認していたダニエルは、しっかりとその史実を理解するよう努めて、深い反省と謝罪をした。
ガイとリリィは、リーナに史実を伝えて理解を促した俺に感謝をしてくれているらしく、その眼差しは、先程までの変人?変態?を見る目とは明らかに異なる暖かさを持っていた。
人間同士が理解しあうためには、やはり対話は重要なファクターなのだった。
「その···すまない。あんたのことも誤解していた。俺の間違った認識を正すために、あえて嫌な役を演じてくれていたんだろ?」
ダニエル君が俺に謝罪をしてきた。
だが、それは違うぞ。
本当にウザかっただけだ。
「理解をしてもらえたのであれば、それで良い。だが、さすがリーナ様だな。先ほどの語りは、心を打つものだったよ。」
賞賛した俺に、リーナは恥ずかしそうに笑い、ダニエルは清々しい笑顔を見せた。
他の者たちも、優しい顔をしている。
「でも、それはそれとして、ダニエル君は生け贄がんばれ。」
「···は?」
「「「「「································。」」」」」
俺の言葉に、場は再び凍りつくのだった。
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