第二章 亜人の国「 ダークエルフ⑮」
「確か、シュラという名前だったと思うが、間違いはないか?」
「······························。」
無言で頷いたシュラの瞳からは、敵意が消えていた。しかし、警戒心がまったくなくなった訳ではない。
先程のやり取りで、少しは話を聞くつもりになったのだろう。
籠絡者のスキルは、敵意丸出しの相手に使うと、この程度のものだ。本来は、もっと初対面から良い印象を与え、時間をかけて信頼を上げていかなければ、籠絡など成功しない。
シュラが精神的に若く、自己嫌悪や自責の念に押し潰されそうになっていたので、敵意という感情が大幅に軽減できた。
異世界のスキルとは違うのだ。
エージェントとして暗躍していた世界では、完全無欠のスキルなど存在しない。いや···超能力を持つ人間が実在はしていたから、絶対とは言い切れないか。それに、俺のソート·ジャッジメントもその類いだ。先天的才能と、後天的才能の違いと言えるだろう。
「シュラ。リーナ様と話がしたい。立ち会ってくれてもかまわないから、彼女の所に案内をしてくれないか?」
「何の···話をするつもり?」
「俺は、人族と亜人の社会が共に歩めるかどうかを確認したい。ここに立ち寄ったのは偶然だが、元々は君らの住む国を目指していた。」
「共に···歩める社会···。」
「そうだ。シュラは、この村に住むエルフをどう思う?」
「ダーク···エルフ?」
「彼らは、元々は普通のエルフだ。」
俺はダークエルフと呼ばれるようになった経緯を説明した。
「そんな···。」
シュラは初めて知るダークエルフの歴史に、瞳を大きく見開いて驚きを見せる。
「彼らと出会ってから、その優しさや親切心に懐疑的だったかもしれない。でもそれは、ダークエルフが悪しき存在だと信じていたからだと思う。」
「·····························。」
「人族にも浅黒い肌の人間はいる。それは悪い心を持っているのではなく、生まれ育った環境によるものだ。彼らもそれと同じなんだ。」
「·····························。」
シュラは押し黙ったが、表情を見る限り、頭の中では理解ができたようだ。
「亜人と呼ばれる様々な種族も同様だ。善人も悪人もいるが、それは人族も同じだろう?」
シュラは急に真顔を向けてきた。
「···あなたはどっち?」
「どっちとは?」
「亜人には見えない。」
回答が難しい質問だった。
今の俺は何なのだろうか?
「元は人族だ。」
「元?」
「なぜか、知らない間に魔王になっていたらしい。」
途端にシュラは、「は?」という顔をした。
意味がよくわからないのだろう。
俺にも訳がわからないからな。
「じゃあ···魔王も同じなの?」
「ん?」
「固定観念で、魔王は邪悪な存在だと考えていた。さっきのダークエルフの話と同じで、そうではなかったの?」
「魔王と言うのは、ただの呼称だ。シュラが想像しているような魔王なら、こんな話をすると思うか?」
「それは···絶対にない。」
「だろうな。」
「わかった。なんとなく理解できた。」
生真面目なのだろうが、頭の良い娘のようだ。
リーナも同じなら良いのだが···不安だ。
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