第二章 亜人の国「 ダークエルフ⑭」
少しブラックな展開ですが···続けて本日2話目を投稿しておきます。
エージェントの闇です。
俺に向けて強い殺意を放つ女性は、リーナの名前を出した瞬間に怯んだ。
短絡で精神的な未熟さはあるが、リーナに対する忠誠は本物のように感じる。
こういった場合に、俺の籠絡者スキルは本領を発揮する。
「君は未熟な腕前の上に、短慮で主たるリーナ様を危険にさらす結果へと誘導してしまった。その自覚はあるのか?」
はっとした表情の後、その顔色からは血の気が引いていた。
自身が犯した過ちの大きさを自覚し、自責の念が噴出したのだろう。その体は微かではあるが震え出していた。
「君の行為によって、他の人達も要らぬ恥辱を与えられる結果となった。気を失っている間の出来事は聞いているのだろう?」
震えが微かなものから、誰にでもわかるようなものに変化していく。
この娘は、自尊心も強いが、それ以上に真面目なのだろう。自らの責務に、日頃から多大なプレッシャーを感じているのかもしれない。
「安易な状況判断は身を滅ぼす。自分の失態で自滅するのは仕方がない。しかし、周りを巻き込むのは最悪な結果としか言えない。」
俺のこういった籠絡者スキルは、ブラックなものだと自覚している。
心理学的に、実社会で問題となっているマニピュレーターという存在がある。それは、相手に信頼と安心感を植えつけた後で、自分のための踏み台にしたり、優越感を満たすために貶める悪辣な存在。この被害にあった者は、相手が敵であると認識ができない間に、自身が追いつめられ、最悪の場合は人間不信や精神崩壊を起こすこともあるという。
今回、俺が行っている手法は、それの逆バージョンである。
理詰めで相手の落ち度を指摘し、自責の念が最大となるように追い詰めるのだが、やり過ぎると逆効果となるので、そこは細心の注意を払う必要がある。
『そろそろか···。』
彼女の様子を見て、頃合いだと判断する。
「だが、君が任務に対して真摯に臨んでいることはわかる。未熟さはあるが、逆に言えば伸び代が大きい。だから、大丈夫だ。」
その言葉が聞こえたのか、彼女はぎこちなく顔を上げ、すがるような瞳でこちらを見てきた。
「すぐに挽回できる。君なら、もっとリーナ様のお役に立てるはずだ。」
まっすぐに瞳を見て言う。声のトーンは、先程の糾弾めいたものとは真逆に、低めに、優しく、じっくりと響くように。
穏やかに微笑むと、彼女の瞳がうるうるとしだし、やがて涙が溢れてきた。
『本当に···嫌なスキルだ。』
そうは思いながら、敵認定をされているような相手には、有用なスキルと認めるしかない。
「俺に手伝えることがあるのなら、何でも言って欲しい。何度も言うが、俺は敵じゃない。君らの役に立ちたいんだ。」
とことん反論が出来ない状況で貶めた後、一転して救いの手を差し出す。
相手が任務対象であれば、籠絡させるのに何の感情も生まれない。だが、今回は胸がチリチリと痛んだ。
エージェントとして甘くなったのだろうか?
それとも、人間としてまともになったのだろうか?
自分自身の変化に戸惑いを感じつつ、すぐに結論は出なかった。
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