第二章 亜人の国「 ダークエルフ⑫」
ガイから話を聞いたが、やはりリーナ達がなぜ魔王を探していたのかはわからなかった。
これまでのことを考えると、リーナは魔王という存在を必要としていると思う。少し狂気じみた感情を持っているのが解せないが···。
亜人に対する牽制や懐柔のためであるのならばともかく、別の理由であれば協力体制が築けるかもしれない。
亜人と人族が互いに手を取り合い、共に発展を目指すというのであれば、こちらとしてもありがたいことではある。
だが、一国の王族が、少数の従者を引き連れて魔の森に入る危険をおかすなど、普通では考えられない。
何らかの脅威···国全体の存続に影響を及ぼす何かが理由なのではないかとも感じる。
その事情を知るために、俺はエージェントとしてのスキルを使うことにした。
あまり気は進まないが、このまま停滞している訳にはいかないからだ。
「うう··わだじは、もうおばりでずぅ···。」
リーナは自室にしている部屋のベッドで落ち込んでいた。
普段の高貴な雰囲気からは一転し、瞳や鼻から何かが垂れ流されている。
「う···う···ダイガ···ざまに···嫌われでじまい···まじだぁ···。」
チーンと鼻をかみながら自己嫌悪に陥るリーナは、まっすぐで思いこみの激しい性格から、そういう勘違いをしていた。
実際は、嫌われる以前の問題ではあったのだが···。
殴られたはずのお腹は、なぜか痛まない。
後で確認をしたが、タイガに倒された者達は嘔吐こそしたものの、後を引くようなケガをした者は皆無だった。
今思えば、ひどい内容で名前を言い間違え、いきなり命を奪おうとしたり、複数の者で捕らえようとした自分たちにすべての非がある。
身分を傘に来た振る舞いを自分は忌み嫌っていたはずなのに、そういった悪い部分ばかりが出ていた気がする。
彼は、おそらくそれに激怒したのではないか?
一方的な想いを押しつけようとした自分に、ドン引きをしたのではないか?
テンパり続けるリーナには、悪い想像しか出てこない。
「どうじだら···どうじだら、もう一度、ぢゃんどお話が···でぎるのでしょうか···。」
悲嘆にくれた声でつぶやいていると、突然ノックの音がした。
ビクッとしたリーナだったが、何かあったのかもしれないと、すぐに返事をする。
「は···はい!」
「リーナ様。夜分に恐れ入ります。もう一度、話をするお時間をいただきたいと思いまして、失礼を承知で参りました。」
その声を聞いた瞬間に、リーナはあたふたとした。
こちらが会いたいと思っていたタイガが、向こうからやって来たのだ。
「は、はいっ!すぐに開けましゅっ!!」
リーナはベッドを飛び出し、ドアノブに手をかけるのだった。




