第二章 亜人の国「 ダークエルフ①」
目の前の女性が、キョトンとした表情で顔を傾げる。
仕草がかわいい。
「···初対面で、いきなり俺の妹を口説くのか?」
剣呑な声で、兄貴らしき男が俺を牽制してきた。
「···そうだな。申し訳ない。確かに、初対面で失礼なことをしてしまった。」
俺は素直に謝罪した。
「あなたは···私たちのことが怖くないの?」
「怖い?どうして?」
「それは···。」
妹の方が真面目な表情で聞いてきたが、深い悲しみを湛えた瞳で、その先の言葉につまった。
「肌の色を見ればわかるだろう。」
彼らの肌の色は褐色だ。
瞳は紅く、髪は白銀、耳は尖っていた。
そう、ダークエルフと呼ばれる種族だ。
「肌の色は南方出身だからだろう?」
俺の言葉に、兄妹は揃って反応した。驚愕の表情を浮かべている。
「加えて言えば、君らは色白のエルフとは違い、獣肉を好んで食べる。それに、火属性の魔法を使う。でも、それだけだ。エルフという種族に違いはないのだろう?」
妹が俺の言葉を理解し、うっすらと瞳に涙を浮かべた。
ダークエルフというのは蔑称だ。
ララノア達が北部出身のエルフだということに対して、彼らは南部出身。元々はそれだけの違いしかないのだ。
当然、生活する地域が異なるため、文化や趣向には差異がある。気性も、ララノア達と比べれば荒い部分があるらしい。
だが、北海道出身の者と、沖縄出身の者の差程度のことなのだ。
ダークエルフと呼ばれ出したのは、千年以上前にその容姿が魔族に酷似していると、当時の人族の王が忌み嫌ったことが発端とのことだ。
その時代、虐殺行為を受けた彼らの祖先が人族に反旗を翻し、血で血を洗うような戦争が数十年と続いたそうだ。
以降、彼らは色白エルフからも疎まれて、別の種族として認識をされることとなる。
そんな種族の一部が、百年前の人族と亜人との戦争で暗躍をした。エルフに対して積年の恨みを持ち、人族の甘言に取り込まれてしまったのだ。
「俺たちの···種族の歴史を知った上で言っているのか?」
怒りとも、悔しさとも言える声音。
元の世界で例えるなら、黒人を始めとした人種差別のようなものかも知れない。
人間とは、他人と優劣をつけ、自らこそが優れた存在だと思い込みたい生き物なのだ。
「知っている。君らの辛さをわかると言えば嘘になるし、過去の凄惨な出来事は聞いた話でしか知らない。でも、これだけは言える。俺には、相手の善悪を見分けるスキルがある。」
2人とも唖然とした表情をしたが、「そんなスキルがあるはずがない。」などとは言わなかった。ララノアやミーキュアのように、特殊なスキルを持つ人間は彼らの中にもいるのだろう。
「君らは悪人ではない。それが確認できた。だから、任務を遂行させてもらう。精霊神アグラレスからの伝言だ。」
そう、これはアグラレスからのエクストラ·ミッションなのだ。




