第二章 亜人の国「 エルフの森③」
エルフの子供と手をつなぎ、歩調を合わせて移動する。
小さい手がぷにぷにしていて、かわいい。
子供ができたら、こんな感じなのだろうか?
これまでの生き方からは、想像もできなかった未来に思いをはせそうになった。だが、複数の気配が、それを中断させる。
気がつくと、数十メートルの距離で囲まれていた。
急激に膨れ上がる殺気に警戒をしながら、この距離まで敵の存在を察知できなかったことを分析する。
かなりの手練れ揃い。
しかも、濃霧だけでなく、気配を森の中···草木の揺れや昆虫、小動物の気配に紛れさせていた。
『この森をホームにしている勢力か。』
そんなものは、一つしかない。
エルフだ。
次の瞬間、微かな異音が耳に入り、タイガは子供を抱えあげて走り出した。
シュッ!
ザッ!
先ほどまでいた位置に、1本の弓矢が突き刺さる。
腕の中にいる子供が、ぎゅっと俺に抱きついた。
異音は弓の弦を引く音···弦音。
この世界では、弦は芋や麻などの自然界から得た繊維を束ねて用いるものばかりだ。科学繊維よりも伸びが少なく、弓への負担も低いらしいが、引く時の音が独特である。
ビィィィィン。
複数箇所から弦音が伝わり、すぐに矢羽の多重奏が耳に届く。
俺は一気に加速し、跳んだ。
一番近くの木の幹を蹴り、その反動を利用して、もう一つの木の枝に跳ぶ。
枝のしなりを利用して、さらに別の木に飛び移る。
肩をかすめるように矢が通過していった。
絶えず、体半分は木を盾にしながら動き続ける。360度を矢面にするよりも、180度に警戒する方が、当然余裕が出る。
数分間逃げ回っていると、相手の攻撃パターンも読めてきた。
5人一組での一斉射撃。それを2チームで交互に請け負っている。
深い森は奴等のフィールドではあるが、それを逆手に攻撃をかわし続けた。
しばらくして、子供と出会った巨大な木の幹が視界に入ってきた。
狙いがどちらなのかはわからないが、腕の中の小さい子を死地に追いやるような手段に、苛立ちをおぼえていた。
俺は巨木の前に降り立ち、バスタードソードを手に取った。




