第二章 亜人の国「 エージェント vs 魔神⑨」
一筋の光線が地表に突き刺さり、すぐに消失した。
その様子を見たミンは、そっと安堵のため息を吐く。
タイガには魔法が効かない。しかし、今回の相手は魔神。想定外の事態が起こらないとは限らなかったからだ。
そう思ったのも束の間、すぐに新たな魔法陣が視界に入った。
「聖属性魔法···あれは、ゴーレムっ!?」
傍らで見守っていたミーキュアが叫んだ。
魔法で生成するとは言っても、ゴーレムの攻撃は物理攻撃そのものである。魔法が使えないタイガにとっては最悪の敵と言ってもいい。
しかも、同時に精製されている核部分は、地上から数十メートルの位置にある。魔力量が尋常ではない魔神だからこその巨大ゴーレム。
ミンやミーキュアが知る限りタイガの攻撃手段は、体術か武具を使用した近接戦闘のみである。
「詰んだわ···いくらなんでも、あれはムリ···。」
後ろからイリヤの悲壮な声が聞こえてきた。
まるで、数十階建てのビルが形成されるかのような質量。
カリスの魔法で姿を現しつつあるゴーレムの巨大さに、俺の顔はひきつっていた。
『あれは···キツイ···。』
あんなスケールのゴーレムに殴られるか踏まれでもしたら、その瞬間に原型なく散る。
魂の盟約を結ぶ際に、「特に抵抗することなく、全力の魔法を受ける。」的な内容で確定してしまっていた。魂の盟約とは諸刃の剣だ。今更ながら、軽はずみに使うべきではないと反省する。
抵抗すれば、盟約に反してしまう。それはすなわち、自らの死だ。
さて、どうしたものかと思考を巡らせていると、カリスの声が聞こえてきた。
「ククク。さあ、必死に抗うといいよ。無様に駆け回って、赤い染みにでもなれ!」
ご丁寧に魔法で拡声でもしたのか、遥か上空から嘲るような言葉を放っている。
確かに窮地だ。
しかし、カリスの不用意な言葉で状況は好転した。
「抗って良いのか。それは助かる。」
俺は、魂の盟約をリライトした。
「また何かの小細工かい?無駄だよ。君はここで跡形もなく消えるのだから。」
勝ち誇ったドヤ顔でカリスは言う。それに対して、俺はこう返した。
「寝言は寝て言え。」




