第二章 亜人の国「 エージェント vs 魔神⑥」
カリスは上空高くまで飛び、そこにとどまった。
俺の位置からは、黒い点にしか見えないくらいに遥か上空だ。
これだけの間合いを取ったとなると、半端な威力の魔法ではないだろう。一応、魂の盟約には、他者を傷つけない旨の条件をつけているが、大丈夫だろうか。
俺は相変わらず、ドキドキで一杯だ。戦闘中に咄嗟の対応で魔法を受けるのとはまた違う。
超高威力の魔法が迫ってくるのを、じっと待つのは本当に怖い。
迫力が違うし、本当にノーダメージで済むのか?という不安も皆無ではないのだ。
火炎放射を正面から受けることを想像してくれ。
出したらダメなものが、いろいろと漏れそうな気にはならないだろうか?
これは胆力と言うよりも、自分の恐怖に対する挑戦なのだ。
~Side カリス~
「魔法が効かない?そんなのは絵空事だ。最大火力で消し去ってあげるよ。」
カリスは上空でそんなことをつぶやくと、詠唱を始めた。
魔方陣が形成され、幾重にも連なっていく。
カリスの属性に制限はない。単独で複数の属性魔法を集束させ、他の追随を許さない効果の魔法をいくつも編み出してきた。
タイガがスレイヤーギルドで講じた融合魔法を、単独でも桁違いのレベルで行使することができるのだ。
やがて、数千にも及ぶ魔方陣が完成し、カリスの位置からタイガまでを一直線に結ぶ。
「極密度光線。」
カリスの最後の詠唱により放たれた魔法は、一点集約の光線。
直径わずか10センチ程度のそれは、超高密度の熱の集束である。
人間1人に対する攻撃としては過剰すぎるその威力は、どんな高位魔法士が障壁を展開しようが、絶対に撃ち破れるとカリスは自負していた。
タイガの言葉など、信じてはいない。魔力がない人間など、いるはずがないのだ。
魔力を完全に隠蔽する技術には驚かされたが、所詮は弱者が相手を惑わすために身につけた外道の技術。魂の盟約については、あれもそれらしく見せるための幻術の類いと思われた。
そうか、奴は巧みな話術と、邪法で人を惑わす邪法士に違いない。
ならば、自分には不要な存在。一瞬で塵も残らないよう消し去ってやる。
そして···
光の速度で駆け抜けた極密度光線は、タイガの頭上に寸分の狂いもなく落ちるのだった。




