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60話 閑話 ~歓迎会⑧~

「ニーナ、刃こぼれがないか確認してくれ。」


「···う、うん。わかった。」


ニーナを安心させるために刀身を確認してもらう。


「線傷ひとつない···すごいわ!」


ニーナは驚愕という言葉がしっくりとくる表情をしていたが、すぐに鍛治士の顔となり満面の笑みを浮かべた。




エージェントは任務中に刀など使わない。


俺は修練の一環として刀を振っていた。初めて真剣を手にしてから20年以上もだ。


刀での修練は集中力を研ぎ澄ます。針に超高速で糸を通すようなものと例えるとわかりやすいか。とにかく尋常でない精神力を必要とする。


もともと忍びの末裔の家系なのだが、忍びとは忍者だけを指すのではない。

ここ重要。

テストには出ないが。


忍は隠密。


今で言うと諜報員、エージェントだ。


忍者は敵対組織の施設に忍び込んだり暗殺を生業とする。


一方、隠密とは行商人であったり、武人であったりと決まった職業はなく、諜報活動に都合の良い人物になりきる。

過去の偉人の中にもそういった人物は多い。日本の全国地図を初めて記した人とか、茶人として有名なスキンヘッドとか、最強の剣豪なんかがそうだ。


エージェントもそれらと変わりはない。

様々な知識を有し、時には科学者であったり、士業と呼ばれる人物にすら為りきる。ちゃんと国家資格まで有してだ。


幸いにもこちらの世界では培った知識や経験が役立っている。

ソート·ジャッジメントのスキルも含めて。


まるで···属していた組織がこちらと何らかの密約を交わして俺を送り込んだのではないか?そう思えるくらいだ。


いやいや···まさかね。




「先日の模擬戦に続き、先程のデモンストレーションで実力の程はみんなも確認できたと思う。魔族を素手でぶちのめし、対人戦闘で不敗だったこのアッシュ·フォン·ギルバートに初めて敗北を味あわせたタイガ·シオタだ。みんなで歓迎するぞ!乾杯!!」


「かんぱーい!」


おい、待てアッシュ。

なんだ今の乾杯の音頭は?

給仕が終わって一緒の席に座っているターニャ達家族が一瞬顔を引きつらせたぞ。


「改めて歓迎するわ、タイガ。」


「これからもよろしくね。」


口々にそう言ってくれるが、実は席に座る時に一悶着していたフェリ達。


喜ぶべきなのか、俺の隣に誰が座るかで争奪戦を開始した。

最終的にじゃんけんで決めたようだが、一戦交えるのか?という雰囲気になっていた。


特にニーナとパティが···それに触発されたのかフェリまで参戦すると言い始めたのだが、リルの采配で事なきを得た。


そして、なぜか俺の右となりにはリルが座っている。


俺の隣の席って何がそんなに良いのかわからん。


新参者の横は縁起物なのだろうか?








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