第二章 亜人の国 「 エージェントと黒猫④」
明朝、竜人の里を出発した。
ブレドは残ると言い、代わりにリーラが同行をするらしい。
長にしてみれば、これまでの罪滅ぼしなのだろう。
同年代の女性であるティーファ達とも打ち解けてきたようだし、年頃の女の子としての生活を経験させてあげたいとのことだ。
本心としては、今後は魔王を補佐する役目を担うため、いろいろと学ばせたいのではないだろうか。もちろん、一般常識なども含めてだが···。
流れ的に、亜人連合を統括する立場に、囲いこまれつつある。本音としては、そのルートに乗るつもりはさらさらないのだが。
無責任に放置をする気はないが、ヒト族との関係値をどういったものにするのか、その答えを導くことが一番手っ取り早いと思っている。
これまで通り、敵対をするのか、手を取り合って共に恩恵を受けるのか。その経緯によって、手を貸せば良いだろう。
これは、神アトレイクからのミッションだ。
俺自身が主体的に動き、すべてを丸くおさめるだけでは、彼らに明るい展望はない。
永続的に俺が関わるのでは、意味がないのだ。
こういった漠然としたミッションは、エージェント時代にも少なくはなかった。
上官が地図の一点を指差し、「ここを何とかしろ。」などというだけの指示も、実際に何度かあった。
そういった対象は、大抵が内乱の続く国家であったり、大規模なテロ組織であったりするのだが、国家間の事情や、秘密保持のために、表立った作戦が実行できないことが多い。
最悪な事に、いわゆる、ヒト、モノ、カネの支援が一切ない時もある。
そんな経験を考えれば、変な柵がない分、マシと言うものだろう。
このミッションをクリアしなければ、次の展開に進めないと言うのであれば、バッチこーいである。
「ねえ、露天風呂に大量の血痕があったそうなんだけど、何か知ってる?」
「私も聞いた。みんなが入った後には、何もなかったらしいんだけど···。」
「と言うことは、深夜に何かあったのね。」
「裸の妖精さんが頑張ったんだよ。」
「えっ、何よそれ?」
「深夜にお風呂に入ったのって、誰?」
「···タイガのはず···。」
「「「「「····························。」」」」」
「あの人···何をしたの?」
なぜか、女性人の視線が突き刺さるように痛かったが、俺は気にしないことにした。
てか、歩く度に擦れて、俺の魔王が泣いている···。




