第二章 亜人の国 「暴虐竜 vs エージェント⑩」
「魔族が攻めてきたという報告は、本部にはなかったと思いますが?」
ミンが、長に問う。
「いろいろとあったのだ···それからすぐに、私の意識は途絶えたしな···。」
詳しい話を聞くと、およそ1ヶ月前に、一体の魔族が竜人族の住む領域に立ち入ってきたらしい。
自分たちの生活を侵犯されると考えた長は、暴虐竜ガルバッシュに魔族討伐を指示した。
結果は···相討ち。
辛うじて魔族を倒したガルバッシュだったが、激しい闘いの結果、瀕死の状態となっていた。
他の者達を退け、事件の公開を禁止した長は、1人で我が子であるガルバッシュの側にたたずみ、最後を看取る覚悟をしていたという。
半日ほど経過した頃、突如天から舞い降りてきた少年が、自分は"とある神の使徒ロック"だと名乗った。
ロックは、ガルバッシュの今の状態は、勝手気儘で同族を蔑ろにしたために、竜神の怒りをかった結果だと告げる。
ガルバッシュは、膨大な魔力と、数百年に1人と言われるほどの戦士としての才能を持って生まれてきた。
しかし、実年齢はまだ14歳。
300年はゆうに生きる竜人族にとって、ガルバッシュはまだまだ子供と言えた。
だが、その子供が類稀な力を持ち、すでに同族どころか、連合内でも最強クラスの実力を持ったとしたら、付け上がるのは想像に難くない。
ガルバッシュは我が儘に育ち、父親である長の言うことも、あまり聞かなくなってしまっていた。
だが、それは精神的な幼さが原因である。
父として、子を正道に立たせられなかったとはいえ、竜神の加護もなく、わずかな人生の幕を閉じてよい理由にはならない。
長は、本来なら感じるべきロックへの不信感を棚上げにし、どこの何者かもわからない神に、救いを求めた。
「どうか···どうか、我が子の命を救ってくだされ。使徒様の、あなた様の神の御力で···。」
普段は竜神への信仰心の強い長も、我が子が救われるのであれば、たとえどのような神であってもすがりたいと思うのは、おかしい話ではなかった。
「良いだろう。」
ロックは、そう返答をすると、鈍く輝く黄金の像を出現させたのだった。
話を聞いた俺は、茶番だと思った。
長とガルバッシュ親子のことではない。俺には経験はないが、子を思う親の気持ちというのは、本来はああいったものなのだろう。
それよりも、あのビリ◯ン像は、元の世界のものがモチーフだ。
それに、ロックという神の使徒を名乗った少年。
推測の域を出ないが、十中八九の確率で、これは堕神シュテインが絡んでいる。
シュテインは、元の世界にいた頃はロシア系ドイツ人だった。極東ロシアで、神や伝統工芸品としてメジャーであったビリ◯ンを知っていたとしても不思議はない。東京在住の者が、沖縄のシーサーを知っているような感じだ。
それに、ロックという名だが、これをドイツ語に置き換えると、シュテインとなる。
ドイツでは一般的な名前だが、ここは異世界だ。2つのキーワードが奴を指しているとしか思えない。
神アトレイクが俺をこちらに転移した理由が、漠然とだが見えてきたようだ。




