第二章 亜人の国 「魔王と亜神とエージェント⑯」
ティーファとアレックスが潜んでいた反対側に、別の2人の気配がしていた。
「そろそろ出てきたらどうかな?」
わずかな沈黙の後に、予想通りの2人が出てきた。
ミンとミーキュアだ。
「やっぱり気づいていたのか?」
ミンはなぜかニコニコしている。
一方のミーキュアは、気まずそうな表情なのが対照的だ。
「ああ。良かったら、一緒に食べないか?」
「それは、イール?食べられるの?」
イールとは、ウナギのことだ。ヘビのような体をしているので、地域によっては食べる習慣がない。
「脂がのっていて美味しいよ。」
「わかった···食べてみる。」
ミンとミーキュアは焚き火の側に座った。
ほどよく焼けたウナギの状態を見て、串を外して身を開き、2人に渡す。
「良い匂いがする。」
「これって···泥臭くはないの?」
それぞれに違った反応を見せながら、俺がウナギを頬張るのを見てから口をつける。
「···美味しい。」
「もっと淡白で臭みがあると思ってたけど···皮はパリッとしてるし、身はふっくらとしてるのね。美味しいわ。」
どうやら、気に入ってくれたようだ。
しばらくの間、静かに食事をしていたが、2人に疑問をぶつけてみた。内容的には、かなりの爆弾である。
「さっきの2人だが、俺のところに来るように仕向けたのは2人じゃないのか?」
俺の言葉に、2人は固まった。
「···どうしてそう思う?」
ようやく口を開いたミンの口調は、かなり重いように感じた。
「この集落のトップはネルシャンのようだし、彼はティーファの兄だ。彼女に謝罪を促すのはわからないでもないが、自分を好きにして良いと言わせるほど、分別があるとは思えない。それに、彼女自身が、その行為に納得をしているという感じでもなかった。」
一度言葉を切るが、2人の様子は変わらない。ミーキュアなど、ギュッと手を握りしめている。
「ネルシャンよりも上位の者と考えれば、ここにはブレドかミン、ミーキュアしかいない。だが、ブレドは今朝の時点では、まだ寝込んでいた。消去法で考えれば、2人のうちどちらか、もしくは両方と考えるのが自然だ。」
「···タイガは鋭い。そう、ティーファに謝罪をするように仕向けたのは私。」
ミンは満足気な笑顔を向けて、そう言ったのだった。
はたして、ミンの真意とは···。




