第二章 亜人の国 「エージェントの二つ名④」
「二つ名を見る前に、ここから下ろしてはもらえないのか?」
「···そうね。ブレドやネルシャン隊長達もいるし···かまわないわ。」
ミーキュアがそう言ったので、ネルシャンが目で促し、クソソン達が俺を吊るしていた縄をほどいた。
だが、縛られた手首はそのままで、床に転がされる。
「···························。」
無言ではあったが、クソソン達の目には明らかな敵意があり、警戒をしていた。
まあ、これで自重による痛みからは解放されたので、良しとするべきだろう。
これからの不測の事態に備え、相手の戦力をはかる。両足は自由なので、蹴り技主体で何とかしなければならない。
魔法が通用しない体というのは、こういった時に余計な弊害がなくなるので、有用とも言えた。
この中で肉弾戦が得意なのは、間違いなくブレドとネルシャンだろう。人間より、はるかに強靭な肉体を持っている。しかし、魔族ほどの驚異は感じられない。見に纏うオーラが格段に下がるのだ。
サキナの親父であるディセンバー卿の方が格上に思えた。まあ、あのオッサンは、国王を差し置いて、覇王とか呼ばれている人外指定されていそうな生き物だから、比べたらかわいそうかもしれないが。
とにかく、今の俺ならば足技だけでこの二人には対処ができる。クソソンなどは、相手が気づかないうちに、ハゲ頭をぺしぺし叩ける程度の実力だろう。
「余計な考えは起こさないことだ。貴様は我らにとって敵だ。不審な振る舞いをした時点で、命はないものと思え。」
そんな思考をする俺を見て、ネルシャンが威嚇するように言ってきた。
ふん、ガチガチだな。
これが亜人連合の思想そのものであると言うのであれば、未来を見据えた発展など夢物語だ。こいつらは、鎖国状態で周囲から置いていかれるだろう。
「それじゃあ、二つ名を見せてもらうわよ。」
「魔力を使って見るのか?」
「違うわよ。上位精霊ベントに力を借りるわ。ベントは、対象の本質を見抜く土の精霊なの。そもそも、あなたには魔力がないのだから、魔法による力は無意味でしょ?」
さすがは異世界。
ファンタジー的な要素には事欠かないようだ。




