第二章 亜人の国 「エージェントの二つ名②」
入ってきたのは、ミンと耳の長いキレイな女性、そして、首や腕に硬質な鱗のある背の高い男性であった。
「ブレド様!それに、ミーキュア様まで!?」
厳つい虎の獣人が、驚いたように声を放った。
クソソンともう1人は恐れるような表情となり、その身を壁の方に寄せている。
「何かわかったのか?」
背の高い男が、虎の獣人にたずねた。
「いえ···それが、呻き声すら出さず···。」
「ほう。人族にしては、根性が座っているな。」
背の高い男が、こちらを値踏みするように見てきた。
その眼は黒目が縦に長く、周りが黄色い。爬虫類を思わせるが、体の鱗も含めて考えると、そういった種族なのだろう。
「とりあえず、回復させるわ。」
横にいる耳の長い女性が、そう言って魔法をかけてきたが、当然、俺に魔法は効かない。
「···························。」
「言った通りよ。彼には魔法は効かない。」
ミンが固い表情でそう言った。
「···なるほどな。報告にあった通りか。興味深いな。」
そこで初めて、俺は彼らに声をかけた。
「俺に興味を持つのは良いが、あんたらは随分と人道に反した行いをするのだな。」
「何?」
「道に迷った俺は、夜営の準備をして水浴びをしていただけだ。それを大勢で襲撃して、逃げ出したら、いきなり衣服を燃やすわ、所持品を奪うわ、質の悪い強盗としか思えないのだがな。」
「「··························。」」
2人は黙り、ミンだけが申し訳なさそうな顔をする。
「黙れ!勝手に我らの領地に入り込んだ貴様が悪い!!」
3人の様子を見た後に、虎の獣人が吠えた。
「常識で考えろよ。お前らがしたことは、間違いなく敵を作る。それが、将来を担う子供たちのためになるか?」
「黙れと言っているだろうが!人族ごときが、我らに説教でもするつもりか!?」
虎の獣人は、剣の束に手をかけた。
「黙るのはあなたよ、ネルシャン隊長。」
その時に声を発したのは、耳の長い女性だった。
「彼は重要な調査対象よ。拷問はともかくとして、これ以上傷つけることはやめなさい。」
静かな口調ではあったが、有無をいわさない響きとなった。虎の獣人は、悔しそうに剣から手を離す。
「あなたも、今の状況を弁えなさい。」
「諭す前に、事情を説明するべきじゃないのか?あんたらは人族を嫌っているようだが、俺には意味がわからない。」
「···この辺りの人間ではないということかしら?」
「そうだ。」
「···まあ、良いわ。あなたの正体は私のスキルで見るから。」
「スキル?」
「私には、相手の二つ名が見えるのよ。それを見れば、あなたのことがある程度は掴めるわ。」
二つ名?
は?
それは···嫌な予感しかしないな···。




