第二章 亜人の国 「襲撃⑰」
「邪気はスキルで感じるのか?」
「ああ、そうだ。」
自分と同じだと、ミンは思った。
これまでに疎ましいと感じてきたスキルだが、同じことができる者がいるとは驚きだった。それに、忌み嫌われるようなスキルである分、目の前の人族に親近感がわいてしまう。
「魔力を通じて見るのか?」
「いや。邪気や人の悪意が、アラートのように見えたり、感じたりできる。」
「アラート?」
「赤や黄色の警告灯のように見えるという感じだ。」
警告灯が何かは良くわからなかったが、何となく理解はできた。自分も、色で相手の感情を見ることができる。
「私も似たようなスキルを持っているが···それで嫌な想いはしなかったか?」
「身内の悪意を感じた時は、人間不信に陥ったな。まあ、物心がついた時には、蠱毒の壺みたいな環境にいたから、逆に良かったかもしれないが。」
「蠱毒の壺?」
「大量の毒虫を壺に入れて、最後に生き残ったのが最強の毒虫になるという比喩だ。俺の場合は、同年代の一族の者同士で生き残り合戦をさせられた。相手の悪意を見れば、情に流されることもないから、逆にスキルに救われた。」
「···恐ろしい一族だな。スレイヤーとは、みんなそうなのか?」
「この話をスレイヤー仲間にしたら、ドン引きをされた。」
「···だろうな。」
「今では良い思い出だ。」
「···本気で言っているのか?私も引くぞ。」
「あの経験で生きる術を得たからな。」
「まあ···それはそうかもしれないが···。」
「ミン様のスキルは、魔力を通して見るものなのか?」
「そうだが···タイガは魔力を使わないのか?」
「俺には魔力がないからな。」
「···それって、何かの冗談か?」
「事実だ。」
魔力がない者など、初めて聞く。
獣人は放出系の魔法が苦手な者が多いが、身体能力強化や硬化魔法は、ほとんどの者が使える。強弱はあるが、魔力がない者などいない。
「人族は、獣人よりも魔法を巧みに使うと聞くが?」
「俺には生まれつき魔力がなかったからな。」
タイガは、まっすぐにミンの瞳を見て話をしている。そこに嘘があるとは思えなかった。
「特異体質···か。不便ではないのか?」
「無いものをねだっても仕方がないからな。あるものを磨いて代替えにしている。」
『おお···いちいち言うことが男前だ。』
「ミン様のスキルで見えるのは、邪気と悪意だけなのか?」
「···感情とか思考が、ある程度はわかる。」
「···そうか。いろいろと嫌な想いをしてきたんだな。」
「まあ···な。あ、でもタイガの感情は見えなかったぞ。やはり、魔力がないからかな?」
「だろうな。因みに、俺には邪気と悪意しか見えない。」
「そ、そうか。では、私のことは表情からしか感情を読み取れないのだな?」
ミンの耳がピコピコと動き、尻尾はゆっくりと揺れていた。
「そうだな。モフモフの動きで多少はわかる気がするけどな。」
「あ···。」
ミンは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに目をそらした。
獣人は無防備になると、喜びを耳や尻尾で表現できるのだった。




