第二章 亜人の国 「襲撃⑭」
視界には、一面の森が広がっていた。
タイガが向かった街、ルービーへは、この深い森を越えなければならない。
森を見渡すことができる崖の上から、ミンはスキルを使って視界に入るすべてを確認していく。
所々に、紫の影が見える。
紫は邪気。
魔物だ。
この森には、数多くの魔物が生息している。
亜人と人族の争いが激化しない要因。互いの生活領域を隔てる壁の役割を果たしていた。
長年続いた激戦の末、百年程前に両者は消耗しきり、暗黙の了解のように休戦状態に入った。
その間に、森には魔物が大量に蔓延るようになったのだが、一説によると、戦死した者達がアンデッドとなったり、その霊が宿った魔石を取り込んだ野獣が魔物化したと言われている。
真偽の程は定かではないが、狂暴な魔物も生息しているため、ルービーで活動する一部の冒険者以外は、あまり寄りつかないようだ。
亜人連合の領域で、希に見かける商人などの人族は、この魔の森に誤って踏むこみ、運良く生き残った者達である。彼らは、護衛として雇った冒険者や仲間を犠牲にしながら、瀕死の体で逃げ出すことに成功するも、その後に命を落とすことがほとんどである。魔物から受けた傷だけが原因ではなく、亜人連合の手によるものも少なくはない。
そういった状況もあり、現在では、魔の森の向こうに住む人族や獣人達の状況は散発的な情報としてしかない。
鎖国のようなものだ、とミンは考える。
亜人連合に異を唱える獣人達は、数年に一度の割合で領域から逃げ出し、この魔の森を抜けてルービーを目指している。
彼らが無事に目的地にたどり着いたのか、そして、たどり着いたとして、まともな生活が送れているのかは定かではない。
亜人連合も、裏切り者として追跡者を出すが、魔物と遭遇して犠牲を出すことには難色を示している。
『この森の向こうでは、どのような世界が広がっているのだろうか?』
ミンは、不安と羨望の入り交じった想いを抱かずにはいられなかった。




