第二章 亜人の国 「襲撃⑫」
扉を開けて入ってきたのは、狼人族の若い男性だった。
『あれ?人族じゃ···ないのか?』
背が高く、肌の浅黒い見覚えのない男だ。
ミンとて、この集落に居を構えているわけではない。どちらかと言えば、大半が知らない者達ばかりだ。
ただ、仕事柄、洞察力には優れていた。
浅黒い肌は狼人族の中にもいる。それに、細身だがしなやかな動きをしているのも特徴の一つだろう。
しかし、何か違和感があった。
『何だ?何が引っ掛かるのだ?』
男はニコッと、少年のように笑った。
『む···精悍さから、無邪気な表情に···ギャップが激しいな。』
「あの···ミン様?」
無言で凝視するミンに、男は躊躇いがちに声をかけてきた。
「え!?あ···ああ、何だろうか?」
「言伝てですが···。」
「あ、ああ。そうだったな。それで···何だろうか?」
男は神妙な面持ちで話し始めた。
「侵入者です。見回りの者が何名か姿を消しました。」
「そのようだな。見回りの気配が消えたことは感じている。」
「さすがです。」
「それより、言伝てはそれだけか?」
「いえ。侵入者の狙いは、おそらくそこにある押収品だと考えられます。」
「そうだろうな。」
「そこにある一式を、違う場所に移すように言われています。」
「···私は聞いていないが?」
「侵入者を確認できたら、動くように···と言われていました。」
「誰に言われた?」
「ネルシャン隊長です。」
「···ふむ、では私も一緒に行こう。」
「いえ、それは困ります。」
「何?」
「ミン様には、ここに残っていただき、侵入者が現れた場合の対処を行っていただきたい···と言うのが、言伝てです。」
「···私に囮になれと?」
「とんでもございません。ミン様なら、誰が相手でも対処できるだろうと。信頼の現れです。」
「ふん···物は言い様だな。」
「それでは、よろしくお願いします。」
ミンにとっては、自分がただ利用されているようにしか思えなかった。しかし、協力しないわけにはいかない。
実際に侵入者はいるのだ。しかも、かなりの腕前だと考えられる。
ミンは監察官ではあるが、その実力は亜人連合の中でも五指に入ると言われている。虎狼はおろか、ここを統括するネルシャンよりも、はるかに強い。
謎の侵入者を相手にできるのは、自分しかいないと理解もしていた。
「···わかった。」
ミンがそう返事をすると、タイガという狼人は押収品を抱えて部屋を出ていった。




