第二章 亜人の国 「襲撃⑩」
「何か違和感を感じる。」
珍しく、ミンが側に控えていた狼人族に話しかけた。常に何も話さない訳ではないが、基本的にミンは自分から言葉をかけない。
自らが特異な存在として距離をおかれているのを理解しているからだ。
種族が違うからではない。狐人族の中においても、そのスタンスは変わらない。あまりにも特殊なスキルを有するが上に、亜人連合の中でもミンと距離を寄せる者は皆無と言って良かった。
相手の魔力に干渉し、大まかな思考を読む取るスキル。それをミンは保持している。
読むと言っても、喜怒哀楽や欲望などを、色に置き換えて見ることができる程度ではある。しかし、それにより、相手の悪意や欲望に気づくことができる。
亜人連合は、人族と対抗するために一枚岩である必要がある。様々な種族が集う組織のため、考え方や展望の違いはあれども、その力を私利私欲に使う者が権力を持たないよう配慮しなければならない。
その役目を担わされたのがミンであった。
先天的にそのスキルを持って生まれたミンは、幼少の頃より家族にも忌み嫌われる存在だった。
心の内を読まれることを警戒した家族は、ミンを隔離した。家族も友達と呼べる者もいないミンは、自宅の離れで読書と独学での剣術、そして魔法の修練に没頭することとなる。
そして12歳になったある日、里長から呼ばれ、族長に保有するスキルを披露させられた。
当時の亜人連合でリーダーを務める族長は、組織の監察官としてミンを抜擢し、内部の統制を固める。
ミン自身は、その立場上、周囲からさらに距離を置かれ、剣や魔法の技術が高いレベルであることも含め、畏怖の念を抱かれるようになっていったのである。
家族からの負の感情や、組織内からの間接的な迫害により、ミンは感情を表に出すことはなかった。
場をなごます冗談を言ったつもりでも、それを聞いている者達がひきつった笑顔を見せるのだから、言葉数も少なくなるのは当然だろう。
心の拠り所がなく、常に重荷を背負ったミンではあるが、本来の前向きな性格と精神的な強さにより、均衡を保つことが辛うじてできていた。
そんなミンにとって、巡回は道中が唯一自由となる時間であるため、最も楽しい一時であった。
「違和感ですか?」
「見回りの気配が少ない気がする。」
「···わかりました。私が様子を見て来ます。何かありましたら、そこにある鐘を鳴らしてください。」
そう言って、案内役として常につきまとう狼人族の男は面倒くさそうに出ていった。
ミンはため息をついた後に、今出ていった男の気配が消えていることに気づいた。
「!」
脳裏には、報告で聞いていた裸の妖精がちらついていたのだった。




