第二章 亜人の国 「襲撃⑧」
集落を見渡せる場所から様子をうかがっていると、先ほどから何やら慌ただしくしているようだ。
俺の捜索のために山狩りでもするのか、あるいは他に何かトラブったのか···。
どうでも良いが、先ほどから小さな虫が俺の尻を狙っている気がする。蚊か何かだろうが、このままじっとしていては、尻を刺されてブツブツくんになりそうだ。
因みに、股間にある物は股で挟んで防御している。子供の時に風呂場でやった「女の子の真似」状態だ。遊んでいる訳じゃない。袋を虫に刺されたら、耐え難い痛痒さに悩まされるからな。
そんなことを考えていると、複数の小隊が門から出てきて、小走りに一方向に向かい出した。
どうやら、俺がベースにしようとした場所に急行するようだ。
俺は、出立した獣人達に見つからないように、死角に隠れてやりすごした。しばらく様子を見た上で、集落へと向かう。
囲いの外は自給自足のためか、畑が全周を覆っている。隠れるところがないので、建物の窓が一番少ないポイントを探って、全力で駆け抜けた。
すぐに囲いへとたどり着き、跳び越える。
音を建てずに着地して、すぐに建物の影に隠れた。
当然ながら、今だに真っ裸だ。
だから、何だというのだ?
エージェントは任務遂行中に、どんな屈辱や羞恥を受けても動じない。
命を奪われることを考えれば、一時の恥など、取るに足らないものなのだ。
「何者でしょうか?」
「···憶測で言えることはないな。」
「ですよね···。」
不審者から回収した所持品は、先ほどネルシャンが報告を聞いていた平屋の建物に一時保管されている。
ここは会議室や、有事の際の作戦本部を兼ねており、その広間に見張りをつけた上で置かれていたのだ。
「それにしても、私みたいな若輩者が見ても···すごい業物ですね。」
「···アダマンタイトを使っているな。しかも、打った鍛治士もかなりの腕前だ。」
「奪い返しに来るでしょうか?」
「普通に考えれば、放っておけるような剣ではない。それに、斥候能力の高い虎狼を出し抜くような奴だ。万一、ネルシャン殿達の追跡をかわせたとすれば、可能性は低くはないだろうな。」
この集落は周囲警戒のために、近隣を領地とする虎人族と狼人族が詰めている。例外があるとすれば、今話をしている狐人族のミンだけである。
彼女は、人族の支配層が亜人連合と呼ぶ組織の幹部であった。
剣の使い手で、知略に優れた武人だ。本部からの定期巡回で偶然居合わせていたのだが、ネルシャンから万一のために、この場での警戒を依頼されていた。
「それにしても···裸で踊る人族か···。」
ミンは他の者が気づかないように、クスッと笑った。




