第二章 亜人の国 「襲撃③」
「何か、作ってるし。」
ターゲットを目視できる位置まで来ると、一番遠目がきくアレックスがつぶやいた。
「夜営のための準備にしては、周到ね。問題はあそこをベースにして、何をするつもりか···ね。」
「なかなかの手際だし。」
見たところ、工具の類いはなさそうだ。木材同士の接点を、組み合わせだけでつなげて雨避けを作り上げている。
「大工?」
「そんなわけないでしょ···。」
所持している大剣、貴族のような装い、器用な手先。
推測だけでは、何者かの判断に迷う。
「やっぱ、黒髪だし。」
この大陸の人族の髪は、金か茶色がほとんどだ。
「肌も少し浅黒い。人族じゃないとか?」
「ケモミミじゃないし。」
「じゃあ、極東の人族とか?あそこの人族は、黒髪黒瞳に黄色い肌って聞くよね?」
「肌は黄色というより、小麦色?みたいな。」
ティーファとアレックスは、基本的に仲が良い。実力は同じくらいだし、共に種族の違いによるわだかまりを持っていないからだ。それに、互いに族長の娘という立場により、慣習やプレッシャーに幼少期からさらされてきた。
要するに価値観が同じなのだ。
生まれ育った環境は似た者同士ではあるが、気質が真逆であることも良い影響として現れていると言えた。猪突猛進タイプで努力家のティーファ、マイペースで冷静なアレックス。この2人だからこそ、2つの種族から集められた混成チームが、大きな混乱もなく、まとまっているのだった。
「一瞬で火を起こしたわ。魔法かな?」
「魔力的なものは感じないし。」
「何か··火を見て静止してるんだけど。」
「黄昏?みたいな。」
「···服を脱ぎ出したわ。」
「······················。」
「···チャンスよ。全裸の時なら無防備のはず。」
「ティーファは欲求不満?みたいな。」
「殴るよ。」
「···嫌だし。ティーファの豪腕で殴られたら、頭が柘榴?みたいな。」
こうして、チーム虎狼は不審者に接触を試みるのだった。




