第二章 亜人の国 「襲撃①」
清流をみつけた。
人が生きていくためには、まず水と塩が必要となる。
塩に関しては、食材の中に含まれている微量のものでも何とかなるだろうが、飲み水は余裕を持って確保しなければ、これからの活動に支障をきたす。
生水は危険と言われるが、体に変調をきたさない水質かどうかは、周囲に群生している植物で、ある程度見分けることができた。エージェントとして身につけた知識に、この世界の生態系を反映させることは、それほど難しいことではないのだ。
岩場の多い渓流付近をベースとして、その周辺数キロを当面の活動範囲に位置付ける。
雨風をしのげる屋根を伐採した低木で作り、その後、燠を作るために集めた枯れ木を燃やした。
炎を見つめながら、この地域の位置関係を考えてみる。
シニタから転移をした瞬間、夜から朝に変わった。正確な時間はわからないが、湿度や温度、空気の匂いから推察して間違いはないだろう。
それは、時差が発生したということだ。シニタから相当な距離が隔てていると結論づけて良い。まさか、神アトレイクが時空を越えた先を転移先に選んだとも思えない。
大丈夫か?
所持している硬貨は使えるのだろうか?
言葉は通じるのだろうか?
そんな不安が、いまさらながらに頭をよぎる。
「今、考えても仕方がないか···。」
俺は衣服を脱ぎ、清流で汗を流すことにした。
冷たい流れに体を浸す。
緩やかな流れが心地よいが、体温を奪っていく。
「!」
突然、気配がした。
一体ではない。既に数十メートル四方を囲まれているようだ。
獣···いや、人間か?
ソート·ジャッジメントは反応していないが、静かな殺気を感じる。
「おいおい、やってくれるな···。」
そう呟きながら、俺は水面下にある自分の体を見た。
「フル◯ンじゃねーか···。」




