502話 天剣と呼ばれた男⑪
叙爵式は1時間とかからずに終了した。
参列した来賓が豪華で、シニタ中立領と接する3国の王太子や公爵、政の重鎮など、そうそうたるメンバーが顔を連ねている。
式に関しては、教皇のビルシュから、「世界の救世主が復活した···云々。」などという重たい言葉と、天剣の証と言える勲章のようなものを授受されて終わりだったのだが、その後がさらに大変だった。
会場を移して立食式の晩餐会が始まると、各国の首脳や重鎮達が殺到し、幾重にも囲まれだした。
一目で高級な誂えとわかる正装ばかりだが、なぜか目が血走っていて怖い。
「テトリア様っ!」
いや···テトリア様じゃねえし。
「私はフレトニア王国のサバルサ·フォン·タバサ公爵です。ぜひ、わが娘をあなたの妻に!!」
「私はテスラ王国王太子であるクルイニ·ベルタ·ロシ·テスラ。私の長女をあなたに娶らせよう。」
etc···
貴族とは、婚姻関係をもってその勢力や人間関係を広げるものだそうだ。俺が希代の英雄という認識をされていたとして、様々な利権を背負ったカモネギのように見えるのだろう。
国の超重鎮である王太子に公爵、大富豪である営利組織の会長など、次々に寄ってきてうるさい。それぞれに、バスケのゴール下でのポジショニングのように激しく自分の体を押し込んでくる。
うざい。
くさい。
この俗物どもがっ!
と、目突きか頭突きをかましたい心境ではあったが、さすがに実行する訳にはいかない。
めんどくせぇ···と思いつつ、社交辞令で相手をしていると、耳に入ってきた音色に脱出する術を思いついた。
晩餐会の場は2~3千人は優に収容ができるような大ホールだ。壁際には料理を並べたテーブルや、料理人、給仕の者達が陣取り、そこより内側に団欒用の小さなテーブルが並んでいる。
中央は何もない空間が広がり、その端には楽団がいた。ヨーロッパなどの格式高いパーティー同様、ダンスをするための場が準備されているようだ。
因みに、貴族社会で立食式の晩餐会は珍しいと言えるが、主催者のビルシュにしてみれば、参加者である王族や貴族の席決めなど、めんどうすぎてやっていられないのだろう。権威や血筋、爵位など、貴族は招待されたパーティーなどでの己の扱いにひどくこだわるからだ。記名や席の順番で戦争が起こることもあるらしい。
俺は視界の端にとらえていた人物に、視線をまっすぐに向けて笑顔を見せる。向こうも、こちらの視線に気づいたようだ。
「申し訳ありませんが、私のパートナーは武芸や魔法に秀でた者と決めております。失礼します。」
周囲の返答など待たずに、目的の人物に向かって歩みだした。




