486話 エージェントは日常に戻る⑭
午後までには時間があったので、ぶらぶらと王都を歩きながら王城へと向かった。
小腹が空いていたので、買い食いをしながら露店を見て歩く。
ふと、通りかかった武具屋を店先から眺め、あることに気がついた。
銃が完成したら、装備するためのホルスターが必要となるが、オーダーをするかハンドメイドで作るしかない。この世界に銃などあろうはずがないのだ。
ショットガンは、シースと呼ばれる肩から袈裟懸けにするホルスターが既製品として存在する。それを模して、グレネードランチャーも外側に固定できるように作成依頼をしようかと思案していると、強い視線を感じた。
ソート·ジャッジメントに反応はない。
周囲に素早く目をやる。
「!」
通りからではなく、屋根の上からの視線。
2ブロック離れた位置にある建物の屋根に···なぜか彼がいた。
かつての護衛対象。
こちらの世界に来てからも、夢に現れたあの少年。
チャーム(魅了)で人を隷属化する異能力者。
凝視し、人違いではないかと見ると、相手も心の内を見透かそうとする視線を送ってきた。
『なぜ···なぜ、ここに···。』
神アトレイクが、突然つぶやいた。初めて聞く、余裕のない声音。
それに気が削がれた瞬間、彼は姿を消していた。
「···彼を知っているのか?」
『···シュテイン···奴こそが魔族を生んだ元凶だ。』
驚愕の事実がもたらされた。
説明によると、あの子供の姿は堕神シュテインの思念体だと言う。
神アトレイクですら、彼の顔を直視するまで堕神であることを感じなかったそうだ。
「邪気や悪意は感じられなかったが···。」
『堕神とは言え、神という存在である以上、その内面に蔓延るものは、例え凶悪な思惑であろうが神の意思。邪気や悪意という区分けは存在せんのだ。』
「俺は元の世界で奴に会っている。チャームという特殊な能力を操り、俺を隷属化しようともした。こちらに転移することになったのは、何か関係があるのか?」
「まさか···そなたの世界に奴が存在していたとは···。」
どうやら初耳のようだ。
と言うことは、俺がテトリアの転生者というのが事実で、元の世界で隷属化されそうになっていたということだろうか?
裏付けは何もない。
安易に推測をしても仕方がないことだった。
むしろ、なぜ俺の前に先ほど現れたのかが気になった。
ようやく本編が動き出します。
急転直下と行きたいところです···。
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