480話 エージェントは日常に戻る⑧
ギルドのカフェでアンジェリカに声をかけたことを、激しく後悔した。
まず、近くにいたパティとマルモアのちみっこコンビが、アンジェリカの「デート」という言葉に過剰反応した。
「こっちに戻ってからタイガはあまりかまってくれなくなったけど、そーゆーことなの?」
パティが拗ねた顔で絡んできた。
そーゆーことって、どゆこと?
「タイガは大きいから、ちみっこは嫌いなんだよ。」
マルモア···。
ここにもいた。
場をかきみだす奴が···。
「え···。」
パティが涙眼になった。
「う···。」
ポロポロと涙を溢して、呆然とするパティ。なぜ?と思いながらも、庇護欲が湧き出てくる。
両手でパティの頬を挟み込み、涙を拭いながら瞳を覗きこむ。
「パティ、俺がお前のことを嫌いな訳がないだろ。」
優しく、ゆっくりと囁いた。
ボンっ!
一瞬で真っ赤になったパティが抱きついてきた。
「タイガ~。」
何これ?
「はぁ、パティはずっとタイガのことを心配していたからね。今ので感極まったんじゃないの?」
マルモアが解説をしてくれるが、泣き出した原因を作ったのは、ほぼおまえじゃないのか?
「そっか···ごめんな。」
優しくパティの頭を撫でた。
ギュっと背中に回された手に力がこもる。
「···うん。」
本当に···何だこれ?
「タ···タイガさん···。」
「ん?」
名前を呼ばれたのでアンジェリカの方を見ると、ムスッとした顔をしている。
そして···その向こうには、眼を大きく見開いたフェリとリルがいた。
何やら殺気が漂い、周囲のスレイヤーが口々に余計なことを言い出す。
「ギルマス補佐···セクハラ。」
「え?マジで!?」
「パティにセクハラして泣かしたのか?」
「頭を剃ったらしいけど、女絡みで悪さをしたとか、しないとか。」
「························。」
世の中は不条理でできている。




