476話 エージェントは日常に戻る④
「タイガ、ちょっとこれを振ってみてくれない?」
ニーナの店に来た。
こちらに戻ってから、すぐにバスタードソードの修復が可能か見てもらったのだが、予想していた通り、これまでの強度を維持するような修復は無理だと言われた。
半ば諦めていたのだが、ニーナは「素材としては使えるし、私がもっと凄いのを打ってあげる。」と言ってくれたのだ。
「さすがだな。バランスが良いから無駄な力を入れる必要がないよ。」
一振りして、その技術の凄さを改めて感じた。
打ち直しとは違い、一度溶解して完全に新しい剣として作り込んでくれたのだ。
フォームはかなり変わっている。こちらのリクエストを汲み取り、さらに強度を増すために全長を短くして、厚みをもたせた片刃の剣になっていた。刃こぼれを起こさないため、切れ味よりも破壊力と耐久性に重点を置いている。イメージ的には、長い鉈といった感じだ。
「研ぎはまだだから。斬れ味はこれからだけど、気になるところがあったら言ってね。まだ修正はできるから。」
修正点など見当たらなかった。片手、両手ともに振りやすく、適度な重量になっている。
「大丈夫だ。非の打ち所がない。」
「ホントに?」
少し、はにかんだ顔をしている。
「うん。」
「わかった。じゃあ、これで仕上げに入るね。」
「よろしく。」
お礼に食事にでも誘おうかと思ったが、忙しそうなので次回に持ち越すことにした。
「タイガさん、ひさしぶりだな。」
ダルメシアンだ。
「開業準備は順調かな?」
「ああ、店の方はあと工事が入るのを待つだけだし、メニューもピックアップしたよ。スタッフはまだ決まっていないけどね。」
ギルド近くにオープンさせるレストランの開業準備は滞りなく進んでいるようだ。
「悪いな。丸投げしてしまって。」
「あんたが魔人だっけ?その嫌疑をかけられて消えた時はどうしようかと思ったけど、魔族に近い奴がステーキを出す店を経営するなんてバカみたいな話だからな。俺は自分のできることを精一杯やるだけだよ。もらったチャンスは無駄にはしない。」
ダルメシアンの眼は輝いていた。
王都で格式の高いレストランを出店するわけではないが、一から築き上げた自分の店を開業するのだ。意欲や希望が膨らむのは当然なのかもしれない。
立地やターゲットのことを考えると、余程のバカをやらない限り、経営が行き詰まることはないだろう。
下手に口を出さずに、好きにさせることにした。




