464話 エージェントは、相棒と共に無双する⑫
「ミスったな。地形を考慮していなかった。」
悪びれた様子もなく、アッシュはそんなことを言い出した。
ここは峡谷である。
2方向にしか開口部がないところで大きな衝撃を生むと、凝縮された形でその力は出口へと向かう。ビルの谷間でおこる突風と同じだ。
魔法は当然の事ではあるが、術者側に被害をもたらさないように施術する。となると、強大な力の行き先は一方向、タイガのいる方角に向かう。砲台の筒の中にいるようなものだった。
「まぁ、アイツなら何とかするだろう。」
そんな一言で、タイガの心配を終わらせたアッシュは、上空に眼をやった。
先程から気配を隠そうともせずに、ゆっくりと下降してくるそれは、真紅の眼をした魔族。
この地に来る前に、タイガはテスラ王国で魔物の群れ数百体を壊滅させたと聞いている。そして、そこには魔物を主導した魔族がいたらしい。今回の場合も、規模は小さいが同じ状況なのではないかというのが、2人の共通認識だったのだ。
魔物が群れて行動をすることは、種にもよるが珍しいことではない。ただ、ミノタウロスは基本的に群れない。それに、他の種と行動を共にすることなど、事例としてはほぼないと言って良い。
魔物と交戦、あるいは壊滅をさせたら、次に魔族が出てくるのではないかという考えは正しかったのだ。
下降しながら、虫けらを見下ろすような眼でアッシュを見る魔族。
次の瞬間、本能がそうさせたのか、魔族は突然振り返った。
「!」
迫る炎。
魔族は両手を上げて、魔法による障壁を展開した。
「後ろがお留守だよ。」
声の主を確認する間もなく、背後から魔族の頭に剣が振り下ろされた。顔の半ばまで埋まった剣は、呆気なく魔族の命を奪ったのだった。
「殺気を消しきれなかったか···まだまだ物にするには時間がかかりそうだ。」
アッシュは、タイガの気配を操る術をいきなり実戦で試した。普通に考えれば、失敗をして命を危険にさらす。しかし、アッシュにとって、強くなるためには危険が伴うのは当たり前のことだった。
極限にまで研ぎ澄まされた集中力は、実戦でしか発揮できない。鍛練だけでは、中途半端な修得に終わる。それがアッシュの考え方なのだ。
実際に、アッシュは恐ろしいスピードで進化をしている。2年前には、魔族と一対一で闘って勝利はしたものの、かなりの重傷を負っていた。
今は、通常の魔族が相手なら、秒殺できる時もある。これは、己よりも強いタイガを意識して、高いモチベーションで鍛練を積む姿勢の結果によるところが大きかった。




