459話 エージェントは、相棒と共に無双する⑦
「嘘だろ?アッシュ·フォン·ギルバートが、この国にいるはずがないだろうが。」
ケイメスの言葉に異を唱えたのは、ランクAスレイヤーのクレイマンだった。
彼は数週間前に、ランクSへの昇格を願い出て、ケイメスにあっさりと断られていた。理由は、「器ではない。」の一言だった。
本人にしてみれば、当然納得がいかない。実績も強さも、ギルドでナンバーワンだと自負しているのだ。
「それに、こんなやつがランクSとかありえないだろ?見ろよ、戦ってもいないのに、死にそうな顔をしてるじゃねーか。」
そーだ、そーだと言う声が、何人からか聞こえてくる。
クレイマンは、その声を聞いて、さらに挑発的なことを言う。
「だいたい、隣にいるハゲは誰だよ?彼氏かぁ?」
直後、クレイマンは背後から肩をたたかれた。
とっさに振り向いたクレイマンの頬に、タイガの人差し指が食い込む。
「痛っ!?」
「誰がハゲだ?それに、誰が彼氏だ?」
不機嫌そうにタイガが質問をするが、頬を突かれたクレイマンには、なにが起こったのか理解ができなかった。たった今まで目の前にいたハゲが、いつの間にか背後にいるのだ。これには居合わせた者全員が混乱し、アッシュの隣とタイガに何度となく視線を走らせた。
「おっ!何それ?どうやったんだ?」
そんな中で、これまで死にそうな顔をしていたアッシュが眼をキラキラとさせて、タイガに質問をしていた。どうやら、転移によって想像以上の圧を受けて気分を悪くしていた事よりも、タイガの気配を操った移動術への興味が勝ったようだ。
「気配を消して移動しただけだ。」
「それだけじゃないだろ?コツを教えてくれ、コツを。」
律儀に答えたタイガに、興味深々に食い下がるアッシュ。
「移動する前に、気配を強くして意識を引きつけるのがコツだ。あとは、相手が他のことに気を取られた一瞬をつく。」
「おぉ、なるほど。」
そう言ったアッシュは、言われた通りの方法で、クレイマンの背後に移動した。
タイガと同じように肩を叩き、人差し指で頬を突こうとしたが、なんの因果か、振り向いたクレイマンの鼻の穴に人差し指がはまってしまった。
「ぐわっ!?」
激痛で、叫びと鮮血を飛び散らせながらうずくまるクレイマン。
「おお、流石だな。一度見ただけで、そこまで模倣するとは。」
タイガが、笑いを噛み殺しながらアッシュをほめたが、当人は自分の人差し指を見ながら憮然としていた。
周囲の者達は、今のわずかな出来事を見て、「いろんな意味で、目の前の2人は只者ではない。」と感じたという。




