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435話 エージェントの憂鬱⑰

「···サキナが言っていたことは···真実だったのか···。」


タイガの実力をまざまざと見せつけられた後に、別邸に戻ったドルク·フォン·ヴォルフ·ディセンバーは、昨夜からの経緯を家令であるビクトリアから聞いていた。


驚くべきことに、あのタイガ·シオタというスレイヤーは、危害を加えるどころか、これまで異性に興味を持とうとしなかったサキナの心を奪ったと言う。因みに、他の使用人からの評価も上々で、いつも無愛想な料理人が、奴の料理に関する知識を笑いながら褒めちぎったくらいだ。


その後、魔物の群れが出た現場に行き、サキナと合流をしたのだが、奴の名前を出した瞬間、「お父様はタイガのことを知っているの!?まさか、知り合い!?」などと言って食いついてきた。 


一体、奴は何なのだ。


「奴···いや、彼がテトリア様の転生した姿だと言うのは、本当なのだろうか?」


「どうでしょうか。本人は否定をしていたみたいですが、教会は認定するようですよ。」


「教会がか?まぁ、大司教が魔人と通じていたなど、醜聞どころではないからな。違う意味で救世主を持ち上げたいのだろうな。」


そこでドルクは気がついた。

早とちりとは言え、自分は歴史上の大英雄の転生者かもしれない男を、こともあろうか、いきなり斬りつけたのだ。これは下手をすると教会を敵に回し、世界から糾弾されることに発展するかもしれない。


ドルクとて、国内では覇王と呼ばれる戦乱の英雄ではある。だが、相手は昔と同じように、今現在も多くの人々を魔に属する存在から守った大英雄···の可能性がある。しかも、自身の娘も、彼がいなければ今日を迎えることができなかったかもしれないのだ。


「···バリエ卿、彼は根に持つタイプだろうか?」


「いきなり斬りつけたことをですか?たぶん、大丈夫じゃないですか。」


バリエ卿は、あっさりとそう返した。


「なぜそう言えるのだ?」


「彼は敵に対しては容赦がない。それは、私自身が目の当たりにしました。あなたが今無事にいると言うことは、敵とは見なさなかったのだと思います。」


ああ、なるほど。

確かに、自分もそうだ。敵対する相手には慈悲など持ちあわせない。しかし、それだとやはり手加減ができるだけの余裕があるということだ。底知れず強い。


「テトリア様の器と言うことか···。」


ドルクが小さく呟いた時、部屋がノックされた。


「バリエ卿。ご来客中に申し訳ございません。スレイヤーのタイガ·シオタ様がご訪問されました。お通ししてもよろしいでしょうか?」








閑話のような内容を長々とやってきましたが、本編への布石です。もうしばらく、おつきあいくださいね。

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