425話 エージェントの憂鬱⑦
「それで、どこに送れば良い?」
「···シニタに行きたい。」
「···本気か?シニタまではかなり遠いし、俺には馬車も馬もないぞ。」
ずっと徒歩で行くわけではないが、夜営をしたり、魔物や盗賊に遭遇する可能性だってある。
「···足手まとい?」
「いや。それは気にしなくても良い。むしろ、カノンは嫌じゃないのか?知らないツルツル頭の俺と一緒で。」
「タイガは···きっと優しい。」
ずっとうつむき加減で話すので、カノンの表情は見えない。耳は真っ赤だが。
コミュ障か?
「さっきも言ったけど、助けたのは職業病みたいなものだぞ。」
「違う···スレイヤーも冒険者も、商人も貴族も同じ。人を助けるのはお金や地位のため。」
「俺は違うと思うのか?」
カノンがはっと顔を上げた。
心なしか、瞳がうるうるとしている。
じっと、俺の瞳を見る。
俺も視線をそらさずに、カノンの瞳を見た。
ボッ!
何か効果音のようなものが生じ、カノンの顔が赤色に染まる。
何だ?
コミュ障だから、人の視線に耐えられないのか?
「タイガは···違う。瞳が···澄んでる。」
そんなことを、モジモジしながら言うカノンに保護欲がそそられる。
それにしても···瞳が澄んでるか。
エージェントの時に出会っていたら、同じことを言われただろうか。濁っているとか、魚の眼みたいだとか言われていた気がする。
カノンは純粋なのだろう。そして、人の汚い部分を見てしまったことにより、疑心暗鬼になっているのかもしれない。出会った時の反応を考えると、あながち外れてはいないのではないだろうか。
「わかった。じゃあ、一緒に行くか。」
「···うん!」
その時に、カノンの満面の笑みを初めて見せられた。
めちゃくちゃかわいかった。




