41話 異世界生活の始まり⑧
賃貸契約の条件が決まった。
毎月の家賃は8万ゴールドとの事だったので、10年分の前払いを提案してみた。敷金やら保証金やらを含めて総額は1100万ゴールド。事前に借金の総額が1000万ゴールドと聞いていたのでそれで賄えるだろうと判断した。
へたに援助という体裁をとると彼女達の心境に恩義という概念が根強く残る。等価交換にすることで今後の精神的負担を少しでも減らしてあげたかった。
「本当に良いんですか?」
ターニャの母親が何度も確認をしてくるが手持ちのお金を考えるとそれほど痛手ではない。
「当分はここを拠点に動くので大丈夫です。こちらも早く住む所が決まって助かりましたよ。」
本当に10年もここで暮らすのか?と問われると正直わからない。
でも、拠点として確保しておくのはマイナスにはならないだろう。エージェントの職務でも何ヵ所もの拠点を持ち、状況により使い分けていた。
緊急避難場所や休息の取れる場所は貴重なのだ。
それに美味しい食事というのはこれ以上にない活力につながる。
住居と食事の問題が同時に解決したと思えば高い出費ではない。
賃貸契約と貸金業者への返済手続きを同じ日程で行うことに決めた。
後者との手続きには俺が立ち会うことを伝えると、母親と弟は深々と頭を下げ、ターニャは瞳を潤ませながら感謝の言葉を告げてきた。
一通りの話を終えて店を出た。
周囲に害意のある存在は感じられない。金貸し業者がターニャ達に余計な手を出す心配は今夜のところはないだろう。
得体の知れないランクSスレイヤーを見極めてから行動しないと自分が潰される破目に陥る。
そう感じているはずだ。
リルに聞いた話では、スレイヤーは尊敬の念だけではなく、畏怖の存在と感じる一般人も少なくはないらしい。
魔物や魔族から身を守ってくれる存在ではあるが、同時に絶対的強者でもある。特にランクがA以上ともなると超人扱いだ。
そのようなバックボーンがあるからこそ、金貸し業者のようなやつらには脅威として写るのだ。




