40話 異世界生活の始まり⑦
目に涙を浮かべたターニャは本当に申し訳なさそうな顔をしている。
「ところで3階は誰か住んでいるのかな?」
「えっ···3階ですか?」
急な質問に驚いたようだが、すぐに現状を話してくれた。
「3階は賃貸で出してるお部屋なんです。春までは魔導学院の生徒さんが住んでいましたが、寮に空きが出たようなので引っ越していきました。今は空き部屋です。」
3人とも質問の内容に怪訝な顔をしている。シリアスな話の途中なのに空気が読めないやつみたいになって申し訳ない。
意図を明かした。
「今日この街に来たばかりなんだ。住むところを探している。」
一瞬の間の後に、
「もしかして···3階のお部屋を借りてくれるんですか?」
恩着せがましいのは嫌いだった。
俺が3階の部屋を借りることで途絶えている賃貸収入と貸金業者への牽制につながるだろう。外から見た時に3階にはカーテンかなかったので空き部屋ではないかと感じていた。
俺にとっても渡りに船だ。
メリットは勝手に感じてくれれば良い。
「うん。そうなればこちらも助かる。」
「だ···大歓迎です!」
ターニャの顔が一気に明るくなった。どうやら意図を汲み取ってくれたようだ。
部屋を借りるために詳細条件をターニャの母親から聞いていると、突然入り口のドアが開いて柄の悪いおっさんと巨漢が入ってきた。
「まだめげずに営業をしているんだな。」
柄の悪いおっさんがメタボ腹を突き出してダミ声で言う。
俺はさりげなく服の中にあった認定証=ネックレスを目につくように出した。
後ろに控えていた巨漢が見慣れない存在の俺に視線を送り、そのまま引き寄せられるようにネックレスに眼を止めた。
フリーズする。
すぐに額から汗が吹き出し頬をつたいだした。やはりランクSの威厳はすさまじいようだ。
「···無視か?」
沈黙するターニャ達を見て横柄な言葉を放ち、同じテーブルにドカッと座るおっさん。
6人が座れるテーブルにはターニャ達親子と俺を含む4人がいた。
「賃貸契約の話をしている。申し訳ないが今は邪魔をしないで欲しい。」
俺の言葉が気に障ったのか、おっさんはすぐに表情を変えて怒鳴ってきた。
「何だてめぇは?さっさと消えろ!」
「···社長。」
後ろの巨漢がおっさんに耳打ちを始めた。
ゴニョゴニョと話しているが、ランクSとか、最強のスレイヤーを倒したとか、機嫌をそこねたら石を投げてくるとか···ほとんど聞こえてるぞ。
見ろ、ターニャ達が眼を見開いて俺をみつめだしたじゃないか。
「···························。」
おっさんは真っ青になっていた。
火を着けたら燃え上がりそうなほど脂汗がすごい。
「あ····あ···その···し、失礼しましたっ!」
そう言って速攻で立ち上がり店を出ていった。
その反応をターニャ達は口を半開きにしてポカーンと眺めていた。
ターニャよ、その表情はダメだって···。




