404話 エージェントの遠征⑫
サキナは、魔族と遭遇するのが初めてではない。父と共に、討伐をした経験すらあった。
しかし、目の前に降りてきた魔族は、格が違った。ただ目が合うだけで、体が動かない。このままでは危険だとわかっていても、声を発することもできないほどの威圧感···いや、これが精神干渉なのか。
サキナは、聖霊スプライトを呼び寄せた。スプライトは草の下位聖霊だが、姿隠しを得意とする。そのスキルで自身を不可視化し、魔族の精神干渉から逃れようとした。
「ほう、なかなかの精神力だ。そんな風にあがくとはな。先程の攻撃もそうだが、少し厄介か。」
魔族はそう言うと、腰に差した剣を抜き、サキナにゆっくりと近づいた。
「発想は良かったがな。下位聖霊ごときでは役に立たんぞ。」
相変わらず身動きも、声を発っすることもできないサキナは、頭上に振り上げられる剣を見ているしかなかった。
「ぬ!?」
魔族が急に後ろを振り返った。
しばらく、そちらを凝視する。
「···気のせいか。」
再びサキナの方を向こうとした瞬間。
ザシュッ!
剣を持つ手が、肩から斬り落とされた。
「なっ!?」
驚きの表情を浮かべた魔族が、状況を理解する前に、背中から胸を刃が貫く。
「ぐほっ!」
残った腕を捕まれて、後方に捻られ、魔族はうつむせに地面に叩きつけられた。
「さっきのプラズマをこいつに撃ち込め!!」
魔族を屈伏させて、サキナに叫んだのは、ハゲ···もとい、スキンヘッドのスレイヤーだった。
「は··はひっ!?テ···テトリア様っ!」
呪縛から解き放たれかのように、サキナが言葉を発する。
「早く!」
タイガは急かしながらも、抑え込んだ魔族の頭を鷲掴みにして、何度も地面に叩きつける。
「は、はいっ!」
プラズマという言葉の意味はわからなかったが、自分への指示だとすると、やるべきことは一つだった。サキナは後方に移動しながら、ウィル·オー·ザ·ウィスプの聖霊を再度呼び出し、イグニス·ファトゥスを放撃可能な状態にする。
「テトリア様、いつでも撃てます!」
「今すぐ撃て!俺には構うな!!」
魔族の頭で地面をひたすら連打するタイガが叫ぶ。
「ですが···。」
「やれっ!」
殺気を孕んだ言葉に、サキナはすぐに行動した。容赦ない。そして、ちょっと怖かった。
「はひっ!イグニス·ファトゥス!!」
再び青白い球体が顕現し、超高速でタイガと魔族に向かっていった。




