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401話 エージェントの遠征⑨

「本物のテトリア様だ···。」


魔法で遠視を続けていたサキナが口走った。


分隊で監視任務にいた者達に集合するよう指示を出し、それが完了するまでの間、タイガを目で追っていたのだ。


テトリア様と目される男は、魔物の群れに近づくと、なぜか魔法ではなく、小さな瓶の口に火を着けて投げた。それで混乱を招き、群れの外周部分の魔物数体に近づいて、難なく倒したのだ。建物内ならともかく、山間や平原では、魔法による攻撃は、魔力の波動により敵に居場所がバレやすい。それを危惧した上での戦術。サキナにはそう思えた。「うひょー、さすがはテトリア様。百戦錬磨ね。」などと、独り言を言って、周りの兵士達が引いていた。


衝撃的な光景を目の当たりにしたのは、キラーグリズリーが突進し、避けきれないと思った時だ。彼が何かを叫んだ瞬間、眩い光が周囲を照らした。視界が戻った時には、キラーグリズリーは倒れ、傍らに立っていたのは漆黒の鎧を纏った彼だった。


サキナは思わず大きな声で、「本物のテトリア様だ···。」と、口にしたのだ。幼い時から知っている、フルプレートアーマー。教会にある彫像や、英雄譚の挿し絵などで、何度となく頭に刻み込まれたそれを、見紛うはずなどない。


束の間の驚き。


「そうだ。大司教代理が本物と保証する彼が、あのアーマーを纏えるのは、当たり前のことだ。」


サキナは興奮を抑えて、次の判断を下した。


「遠距離の攻撃魔法を使える者は、隊列を組め。彼を支援するぞ。」


その言葉に緊迫が走る。


「他の者は、魔物の攻撃に備えて防壁になれ!攻撃部隊は、彼の妨げとならないよう、魔物の密集した部分を狙って戦力を削るのだ。」


「「「はっ!」」」


役割ごとに小隊が再編される。

普段の訓練の賜物か、隊をまとめる小隊長達が、すぐに呼応した。




タイガは平坦な場所に移ると、こちらとの間合いを徐々に詰めてくる魔物達を見据えた。


太い木々が連なり、それが障害物となって、一気に距離を縮められない。それがフラストレーションとなるのか、威嚇のような唸り声が重なりあっている。


「なんでやねん!」


タイガは鎧を解除するために、再びキーワードを唱えた。眩い光が放たれ、瞬間的な目潰しが魔物達を襲う。


持ってて良かったアサフェティダ。


先程とは異なる小瓶を取り出した。バリエ卿を襲った盗賊達に使った、最凶のあれだ。


別名、"悪魔の糞"。


魔物と一括りに言われるが、分類で考えればキラーグリズリーは魔獣。当然、嗅覚が鋭いのだが、クマは地球上の生物の中でも、最も鼻が利く動物だと考えられている。実に人間の約2100倍。これは異世界であっても、同じと考えられた。


タイガの立ち位置は風上。当然、そこは計算に入れていた。鎧解除の発光がおさまる瞬間、小瓶を先頭にいるキラーグリズリーに投げる。


小瓶は、キラーグリズリーの額に命中して四散し、中に入っていた猛烈な臭気が風下に流れた。


その後は、正に阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


アサフェティダの臭気を嗅いだキラーグリズリーは、尽く口から泡をはいて気絶。そこに混じっていたオーガも、嘔吐しながら倒れたり、鼻を押さえて逃げまどい、邪魔になる他の魔物と仲違いを始めた。


タイガは、その様子を見てから、視界に入る範囲の魔物に、ひさびさの風撃無双を手当たり次第にみまう。


急所へのピンポイント攻撃など、風撃無双には望めない。しかし、手数の多さが、隙だらけの魔物達に致命傷を与えていった。










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