399話 エージェントの遠征⑦
『勝算はあるのか?』
魔物の群れに向かって歩いていると、神アトレイクが話しかけてきた。
「勝算か···どうだろうな。」
勝算など、あまり意識はしていなかった。動けないような傷を負ったり、死なないように動く。ただ、それだけだった。
『この状況を打破するには、魔物の殲滅しかないと思うがな。』
「気負いする必要などないだろう。魔物の数を、外側から削り続ける。状況が悪くなれば、距離を置いて仕切り直せば良い。」
注意すべきは、魔物の群れに囲まれることだ。逃げ道がなくなれば、精神的にも余裕がなくなる。
『達観しているのだな。初代は、慎重すぎるほどだったのだが。』
「初代?」
『テトリアだ。』
「初代も元祖もないだろう。俺はテトリアではない。」
『個人としてはそうだろうが、周りがそう思わないのではないか?』
「···謀ったな?」
『さあ、何のことかな。』
タイガは、クリスティーヌを助けるために、自らの命を代償にしても良いと言った。そのため、もう1人の堕神や魔族との戦いに備えるべく、神アトレイクは今後のパートナーとして、タイガを選んだのだ。テトリアが再臨した姿であると周知されれば、国家や組織は安易にタイガを囲い込めなくなる。
希代の英雄テトリア。
その存在を独占することは、大きな反発を生む。魔族からの脅威に抗う、スレイヤーのような職務ならともかく、一国の支配下に置くことは、他国やアトレイク教が黙ってはいないだろう。
「まあ、いいさ。協力はするが、自分の判断はねじ曲げない。それだけは、言っておく。」
神であったとしても、善悪の基準は委ねる気はない。タイガは、暗にそれを伝えた。
『憶えておこう。』
奇妙な関係である。
かたや、神界を追い出された堕神。
かたや、異世界からの来訪者。
互いに立場や思うところは異なるが、行き着く所は同じであった。
人間社会を守るために、動く。




