39話 異世界生活の始まり⑥
出された料理はものすごくおいしかった。
トマトのスープと牡蠣のバターソテーでバゲットを何回もおかわりした。
「すごい食欲。」
クスクス笑いながらターニャが今日一番の笑顔を見せてくれる。
「すごくおいしいから。」
口をモグモグさせながら答えるとカウンター兼厨房にいたターニャの弟が、
「ありがとうございます。まだまだおかわりできますよ。」
と笑いながら言ってくれた。
「話してくれないかな?」
「えっ?」
食後のコーヒーを飲んでいる時に切り出した。
「何が相談事があるんじゃないかな?」
「···どうして···わかるんですか?」
「ん~、直感かなぁ。」
驚いた表情でじっと俺をみつめてくるターニャ。
そして、
「ごめんなさいっ!」
突然頭を下げだした。
「髪をカットしている時にタイガさんがスレイヤーだとわかって···ここに連れてきました。」
認定証であるネックレスが見えたのだろう。
「顔を上げて。相談なら乗るから。」
顔を上げたターニャはすぐに迷いをふっきたのか、まっすぐな瞳で語りだした。
話の内容はこうだ。
一年前にターニャの父親が病に倒れた。
難病で高額な治療費と看病が必要となり、店を閉めて借金でまかなうこととなった。残念なことに父親は半年後に他界し、残ったのは多額の借金と抵当権をつけられた自宅兼店舗のみ。
まだ就学中だった弟は卒業してすぐに店を手伝ようになったが、休業期間が長く、腕の良い料理人であった父親がいなくなったことで経営は低迷の一途をたどった。
それに加えて借金をした業者が悪質で、ここを立ち退かせるために営業中に嫌がらせをするようにもなったらしい。
今も夕食時なのに客が一人もいないのはそのせいだろう。
「それだけじゃないんだ!返済を遅らせて欲しいのなら姉ちゃんに妾になれって言ってくるんだ。あいつら人間じゃないよ。」
悔しそうに話すターニャの弟は鼻を真っ赤にして今にも泣き出しそうだ。
「だから···嫌がらせに来る人もスレイヤーであるタイガさんがいる前では手荒なことはしないと思って···利用するような真似をして本当にごめんなさいっ!」
よくある話なのかもしれない。
だが直面するとやるせない。
「料理が美味しい店を紹介してくれたのは事実だし、利用されたなんて思ってないから謝らなくて良いよ。」
ターニャの何度目かの謝罪に俺はそう答えた。




