390話 偽りの聖者⑪
教会本部の御偉いさん方に、状況を説明した。
最初は、魔人の嫌疑をかけられていたタイガに疑いの眼差しを向けていた彼等ではあったが、クレアやクリスティーヌから事情を聞き、大聖堂での出来事を取りまとめた報告書に目を通していくうちに、次第に顔を蒼白にさせていった。
「て···てと···テトリア様なのですかっ!?」
不本意だが、そう思わせた方が話はしやすい。タイガは後で文句をつけられないように、言葉で肯定はせずに次の行動に出た。
「なんでやねんっ!」
叫ぶなり、またもや目映い光に包まれて、鎧姿となる。
「テッ···テトリア様!」
教会本部の幹部達は、皆が一斉に膝をつき、ほとんど土下座のような勢いで頭を下げた。
タイガは嘘にならない程度に、勘違いを誘発させる言葉を浴びせることにする。
「面を上げてくれ。こういう敬われ方は苦手なんだ。それから、今の俺はテトリアではない。スレイヤーのタイガ·シオタという。因みに、ショタと呼んだらティルシーに依頼をして、毛根を消滅させるからな。」
壁際で話を聞いているふりをしていたティルシーが、最後の方の言葉に反応をして、親指を立てながらニヤッと笑った。
「ま、まさか···テ···テトリア様のその頭も···。」
「···ティルシー、やっていいぞ。」
余計なことを言う奴がいたので、少し脅しを入れておくことにした。
「了解!···毛根に死を!毛根に死を!」
「ひ···ひぃー。」
ティルシーが片手を上げて、掌をかざしつつ呪いの言葉を唱える。対象となった男は、頭を両手で庇いながら、床に額を押しつけ悲鳴をあげた。
「な···何これ···。」
ティルシーと同じく、壁際にいたフェリが、驚きを言葉にして隣にいるマリアとシェリルを見た。
目があった2人は、首を左右にゆっくりと振りながら、こう話す。
「気にしなくて良いわ。」
「そうね。ただの茶番よ、茶番。」
ぷ···くくく···。
近くから、ガイウスの笑いを抑える声が聞こえてきた。
「···ティルシー、次はアイツだ。」
タイガは悪のりをして、ガイウスを指差す。
「おう!」
ティルシーの喜び勇んだ声を聞き、ガイウスが悲鳴をあげた。
「ちょっ···やめ···うわー、まだハゲたくないっ!」
辺りは騒然となった。
これを発端に、現在に再臨したテトリアは、逆らえば「毛根を刈り取る厄災」に変わると、噂をされるようになった。
尚、その噂を聞いたタイガは、「厄災は俺じゃなくて、ティルシーだろ。」と、しれっと答えたという。




