376話 そして、エージェントは伝説となる⑫
「なんでやねん!」
鎧を解くために、再度キーワードを言い放ち、同時に足を一直線に振り上げた。
魔人は、視界を奪われることを警戒して、咄嗟に腕を上げて目をかばったため、タイガの蹴りが見えていない。
ゴッ!
剣を握った側の肩に、タイガの踵が落ちる。鎖骨が折れたのが、音と感触ではっきりと伝わってきた。
「ぐぬぅ···。」
衝撃で剣を落とした魔人だったが、もう一方の手で、タイガの足に掴みかかろうとする。
タイガは、踵を落とした魔人の肩を起点に、反対側の足で弧を描き、サマーソルトキックを繰り出した。爪先を相手の顎先にかすめさせて、宙返りをうつ。
ドサッ。
魔人が脳を揺さぶられて、腰を地面に打ちつける。
「悪いな。尋問をする余裕はなさそうだ。」
落ちた剣の束を蹴り上げた。
それを掴み取り、魔人の心臓部分に剣先を食い込ませて、トドメをさす。
硬化魔法が使える魔人に尋問をするなど、リスクでしかない。聞きたいことはいろいろとあったが、諦めるしかないだろう。
「終わった···の?」
身廊から出てきたフェリが、問いかけてきた。
「ああ。とりあえず、存在が確認された魔人は、こいつで最後だ。」
他にもいないとは言い切れないが···。
ぴと。
へっ?
胸元を見ると、フェリが額を押しつけていた。
「え···あの···フェリさん?」
「バカ···。」
「···········。」
フェリが、ギュッと抱きついてきた。
「心配したんだからね。」
「うん。ありがとう。」
タイガは優しくフェリの頭を撫でた。




