369話 そして、エージェントは伝説となる⑤
「神アトレイク。」
タイガは、再び声を出さずに神アトレイクに呼び掛けた。
『なんだ?』
「大聖堂に来た。次はどうすれば良い?」
『そなたにできるのは、そこまでだ。聖女クレアよ、聞こえるか?』
「はい、アトレイク様。」
『聖脈を開放した。エクストラ·ヒールを唱えよ。』
「はい!」
エクストラ·ヒールとは、回復魔法の中では最上位のものとなる。現代では、発動できる者はいないと言われ、魔法学会でも古代魔法に位置づけられていた。
「クレアとも話せたのか。それに、古代魔法とは···何でもありだな。と言うか、本当に神なんだな。」
『あたりまえだ。まだ疑っていたのか?』
「神とは接点のない世界にいたからな···あ、悪い。知り合いが聖騎士と戦い始めた。俺もそちらに加勢する。」
見れば、マリアとシェリル以外に、なぜかフェリやリルもいる。ここにいる理由には、何となく予想がついた。ちょっと目頭が熱くなった。
クレアを見ると、エクストラ·ヒールの詠唱を始めたのか、眼をつむり何かを唱えている。神アトレイクを信じるなら、これでクリスティーヌは助かるはずだ。であれば、邪魔が入らないように、目の前の敵を蹴散らすべきだろう。
『まぁ、待て。そなたには争わなくとも、この状況を沈静化する術がある。』
「どうするんだ?」
『"フォーム·チェンジ"と唱えよ。』
···は?
何だそれは?
どこぞのヒーローか?
「それしかないのか?何か、どこぞのヒーローのパクりみたいで嫌なんだが···。」
『そんなことを言ってる場合ではないと思うが。そもそもヒーローとか、パクりとか、何のことを言っているのだ。』
「いや···気にしないでくれ。」
『まぁ···良い。好きな言葉を選べ。例えば、「アトレイク様だ~い好き~」とかな。』
「なんでやねん。」
『了承した。』
えっ!?何が?
『それでは、"なんでやねん。"と唱えよ。』
は?
何を言っている、このおっさんは。
『悠長にしている場合ではないと思うぞ。』
「··························。」
『······おい。』
ここでのやり取りを、めんどうに思った俺がいけないのだろうか。まさか、これが今後も引きずることになろうとは···この時には思いもしなかった。
「はぁ···わかった。なんでやねんっ!」
そう言った瞬間に、耳のピアスが光輝いた。スキンヘッドに反射した光は、戦っている者達や、身廊に居合わせた信者達を広範囲に照らし、全ての意識を光の基であるタイガに集中させることとなった。




