36話 異世界生活の始まり③
ホテルのフロントに行った。
若いフロントマンは俺の姿を見て眉をピクピクさせていたが、
「いらっしゃいませ。」
と普通に声をかけてくれた。
こんな格好でも門前払いをされることがなかったことを考えると、ちゃんとしたホテルなんだろう。
「こんな姿で申し訳ない。スレイヤーなんだが今日泊まれるかな?」
認定証を提示しながら話す。
「それはランクSの!?は、はい!喜んで!!」
ランクSの威厳はすごいらしい。
部屋に案内をされて室内に入る。
ダブルベットとソファー、執務机があるが、それでも余裕のある広さだった。家具も寝具も安物ではなく、これで一泊1万ゴールドなら満足度は高い。
さっそくシャワーを浴びて汗と疲れを洗い流す。
髪を洗っていると何ヵ所かの毛先がチリチリになっていた。爆発で焦げたのだろう。
気になったのでシャワーを出た後に購入した服を着て外に出た。
ホテルの近くに美容室を見つけて入る。
毛先のカットと顔剃りをしてもらった。
こうしていると異世界に来たという違和感はほとんど感じられない。エージェントとしての任務で海外に出向いた時と大差がないのだ。
「お客様の髪、キレイですね。」
茶色の髪をショートカットにした美容師が話しかけてきた。ボーイッシュな雰囲気をしているが、瞳が大きくキュートな感じだ。
胸が大きく、顔を剃ってもらっている時にたまに頭に触れるので心地いい思いをさせてくれていた。
「そぉ?」
「はい。艶やかな黒髪って憧れます。神秘的で。」
「生まれ育った場所だとこんな髪質が普通だったから気にしたことはないかな。」
「東の方の出身ですか?」
「うん。逆に無いものねだりでそんな茶色の髪が羨ましいと感じたりするよ。似合ってるし。」
「えっ···そんなものですかね?」
髪をほめられてうれしいようだ。
はにかんでいる。
「そんなものだよ。」
笑顔で返答しておいた。
胸のお礼だ。




